- 作者: テッド・チャン,公手成幸,浅倉久志,古沢嘉通,嶋田洋一
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2003/09/30
- メディア: 文庫
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テッド・チャンの小説は、ここ十年で最大の思考的限界ギリギリの傑作だ。
どうしたわけか、自分はSFを作り話としてではなく、リアルな理念として受け取ってしまう。なのであるから成人してからも、しばらくはガッチャマンやStarTrekはすぐさま手に届くところにある世界だと思い込もうとしていた。
阿呆丸だし極大お馬鹿である!
イデオロギー亡きあとのユートピアは、SFに残留している。とりわけ、ハードSFのこの手の思考的限界ギリギリの彼方にある。そこに手が届くようで届かない、イデアの無何有郷があると信じたい。
さて、唐突ではあるけれど、ここで自分は別のアメリカ人たちを思い浮かべる。
超越主義者はアメリカ独立からまもない頃に東海岸のコンコードに輩出した強靭な魂の持ち主たちのグループである。独立心と克己心と自然への調和が一体化した精神界の「父たち」である。
なかでも、ソローとエマソンは抜群の存在感がある。
例えば、ヘンリー・デイヴィド・ソローである。
統治することの最も少ない政府こそは最善の政府である
このソローの呼びかけは、例えば、インドで英国の圧政に悩むガンジーにまで響いた。「市民としての不服従」は克己と独立心の見事な混合物だ。
ソローの面白みはそれだけではない。
折り紙付きの奇人反乱指導者ジョン・ブラウンへの奇矯なまでの入れ込み!!
ジョン・ブラウンの生涯と行動は、一介の過激な反奴隷主義者だけでなく、家族を石槍で武装させて米国連邦政府に反乱しようとした、その偏執狂ぶりにある。
彼らが、同じ穴の奇人であった証拠だろう。
有名なこの逸話にもシビれる。
人頭税の支払いを拒否して留置所入りしたソローを訪ねたエマソンが、「君はいったいぜんたい、どうしてこんなところに入っているんだ」と語りかけとソローは
「あなたはどうして入っていないんですか」と切り返したという。その人頭税は米国政府が「不正」と彼が信じる戦争のために課したものだった。後年、ラッセルが第一次世界大戦に反対したときに、模倣するほどである。
精神のユートピアはこの時代、一時的にコンコードに舞い降りたのであろう。
テッド・チャンのSFの臨界超越者と超越主義者はどこで結びつくのであろうか?
アメリカという広大な自然への順応力と体制への反服従という点でだろうか?
彼らの周囲にはまだ広大な未開拓な原野があった。それに応じた精神の未開拓地の切り開きをエマソンもソローも精神と肉体を総動員して実践した。まさにそうした臨界性と未知への自己駆動性が共通なんじゃないかと思う。
BGM:サンタナの「transcendance」
どうか、日本人にもそれなりの自己駆動性とパワーを!
- 作者: ヘンリー・D.ソロー,Henry D. Thoreau,今泉吉晴
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- 作者: H.D.ソロー,飯田実
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- 作者: ヘンリー・デイヴィッドソロー,Henry David Thoreau,山口晃
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