ブルームズベリーへの会釈

北條文緒さんの回想録ともいうべき書を最近、読んだ。


冒頭はギリシア旅行から始まる。フォスターの小説世界にその機縁はあるのだそうだ。
引率するは、川島重成先生。その引率ぶりがラディカルだ。ぜひ片鱗を知りたいものだ。一市井人としては、この本で欠落を埋めるしかあるまい。

ギリシア紀行―歴史・宗教・文学 (岩波現代文庫)

ギリシア紀行―歴史・宗教・文学 (岩波現代文庫)

 それにしても印象が深いのは彼女の前半生、父君との関係である。ケインズの訳者として名が知られた父君との思い出を懐かしく語る、その懐古感が最大の本書のウリかもしれない。末期を看取るその時は、深く読む者のこころに刻み込まれる。

最後に駄目だと悟ったその瞬間、父の脳裏にはあとに残す妻と子どものことが閃いたのだ。どうしようと言ったとき、家もなく貯えも恩給もなく路頭に迷うかもしれない三人のことが、残酷にも鮮やかに日の前に照らしだされ、父は絶望したのだ。

母娘3人の苦難の生活。そして、ケインズもその一員として含むブルームズベリーグループを自身の専門として選ぶわけだ。
 しかし、ケンブリッジ大卒のエリート芸術家集団であったブルームズベリーグループこそは、日本人の資質から対極的な、かけ離れた社会的コミュニティであった。
その精神性や人間関係の考究は何ほどか役に立ちうるに違いないと思う。東西のある意味、両極性を帯びた島国を親子二代で読み解こうとした、その軌跡を忘れてはなるまい。

ブルームズベリーふたたび

ブルームズベリーふたたび