グーグルというエクセレントカンパニーの何が本質的原動力なのか。
様々な見解があるだろうが、ここでは「数学」からあぶり出しをしてみたい。
創業者の一人、セルゲイ・ブリンはスタンフォード大出であるが数学の才幹は傑出したものがあった。
検索原理のページランクを編み出すときにその能力は遺憾なく発揮された。
重要なページを特定することを可能にしたのは、5億の変数を用いたプリンの数学的計算だった。
エリック・ヴィーチという人物がいる。彼は何者だろうか?
「人類史上最大の成功を収めた広告システムを開発したグーグルのエンジニアだ」
しかも、注目すべきことに、この御仁の経歴は広告とは無縁だった。
彼は、その才能でグーグルを黒字転換させた。スティーヴン・レヴィによるとこうだ。
ヴィーチはカマンガーと話すうちに、グーグルの悲惨な財務状況は、自分の数学の知識を使って広告の概念そのものを変えるチャンスであることに気づいた
それがヴィーチとカマンガーによる「入札式広告のアドワーズセレクト」方式だった。これは同社のドル箱である。
グーグルの「チーフエコノミスト」のハル・バリアンは経済学者としても著名だ。彼の経歴のトリガーはこんな体験だ。
SF作家アイザック・アシモフの「ファウンデーショ」(三部作)を読んで、人間の社会行動を数学的モデルを用いて説明している登場人物に完全に魅了されたことにあった。
アシモフの小説の中心人物ハリ・セルダンは数理歴史学者だ。 バリアンはグーグルビジネスの経済学的アナリスト&アドバイザーである。
IPO時のこんな逸話は、数学的ギークが溢れている会社であることを証明している。
2004年4月29日、グーグルは証券取引委員会に新規株式公開の申請書S1を正式に提出したが、それは近来にない内容で、売却株数は二、七一八、二八一、八二八ドル相当だった。
この額は一見口からでまかせの数字に思えるが、これはパイと同じようなEの概念(自然対数の底) で、数学マニアにはよく知られている。
ジョン・バッテル『ザ・サーチ』 より
もちろん、同社の社名が巨大数単位にちなむことを忘れてはならないだろう。
一番、グーグルの数学的本性を浮き彫りにした指摘は、ベルナール・ジラールによる。
数学への傾倒がグーグルらしさのひとつに数えられる。顧客との関係の言語として、数学をこれほど使った企業は他にほとんど存在しない。アドワーズやアドセンスに広告を掲載することは、統計データを定量化し、解釈する際の手本となる。
それを具現したのが人材戦略だ。担当のジュディ・ギルバートはこう語る。
面接ではコードを書かせたり数学の問題を解かせる。重視するのは思考過程だ。
その典型となる問題が「100万行の行列計算を解け」なのだ。
企業のコンピテンシーに数学的イノベーションを据える。そのための最大の投資は能力ある人材だ。日々増殖する膨大な情報を数学的に調理するだけで利益を生み出せるのだ。
世界中にある巨大なデータセンターなどは二の次といっても過言ではないだろう。
これを史上初のプラトン型企業と分類してみたくなる。プラトンは幾何学こそイデア界の理解に不可欠な認識手段の一つとした。グーグルは数学こそネット覇者の戦闘に勝利するための道具と考えているかのようだ。
プラトン型にグーグルをすえる理由の証拠は、もう一つある。グーグルのHW製品はどれもこれも地に足がつかず失敗することが多い。
・Chromebook 格安PCだが教育機関限定で一般にまで普及せす
・Google Nexus タブレット端末だが、厳密に言うとグーグル製品とは言えない
・Chromecast 14年5月に日本でも発売開始。だが何だか知っている人は少ない
・Google Glass 野心的なウェアラブルコンピュータであるが街頭で市民が掛けるものではない
Appleに比べると市場訴求力に見劣りする。HW製品はもはやイデアに属するのではなく、マテリアルに成り下がるからであろうか。
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有名なスティーヴン・レヴィの著作では「数学」が34回出てくる。500頁強の力作だ。
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ジョン・バッテル『ザ・サーチ』では「数学」が16回だ。「統計」が7回だ
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イカニモ日経らしい技術的かつ経営的な取材を重ねた地道な紹介書。仮説がないけどよく調べてはいる。
「数学」が1回だけ登場する。「統計」は4回。統計学者で3回と統計データで1回だ。
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有名なケン・オーレッタのノンフィクションでは「数学」は22回、「統計」は2回だ。ヴァリアンの発言は嘘みたいに感じる。
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グーグルのイノベーションの本質はフリーなデジタル情報から価値を取り出す数学的アルゴリズムをデザインするかということだ。それがジラールの結論だ。200頁と薄いが読み応えがある。その中に「数学」が32回出てくる。「統計」は23回である。
- 作者: ベルナール・ジラール,三角和代,山下理恵子
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