詩人ハイネの「流刑の神々・精霊物語」は若き民俗学徒・民族学徒を刺激した。
日本の妖怪たちは零落した神々だという解釈が一つの潮流となりぬ。さてもさても、うべなるかな。
というわけで、「トイレの花子さん」は妖怪ともいえぬが、さりとて幽霊というわけでもない。しかし、なぜかしら若き女性であることが、水辺の神としての面影を宿す。
本来ならば厠の神は厠神がいる。
が、しかし、現代のトイレはかつての溜め置き式の厠ではないのだ。
現代のトイレは、水が出入りする家と異界の境い目にあるのだ。つまりは「水辺」なのだと解釈できる。
実は『古事記』におけるミツハノメ(弥都波能売姫)が生まれるシーンがトイレとの関連性を叙述すている。イザナミが迦具土神を産んでなくなる間際にミツハノメは登場する。
次に尿(ゆまり)に成りませる神の名は弥都波能売(みつはのめ)の神
古き世の日本の家屋には罔象女神(ミズハノメノカミ)が住まわった。
その代表が井戸である。
それは、小泉八雲の小説から知ることができる。疑わしくば、諸氏よ、『死生に関するいくつかの断想』を読まれよ。
水洗式トイレに出現する現代の見すぼらしき異界のものとして、すなわち「トイレの花子さん」が零落した水神と夢想するのは、楽しくもあり切なくもある。
零落した神であるかどうかは、ここで性急に結論はだせないけれど、古来のミズハノメニカミとの微かな連関を思うことでご祖先の心根に触れることができるのではなかろうか。
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