宇宙空間において遠い天体ほど高速で遠ざかるというエドウィン・ハッブル君の大発見は、現代宇宙論の基礎になっている。アインシュタインをして我生涯最大の過ちと言わせた宇宙項は、ハッブルの法則によって無くても良い余計物になった。
距離に比例して赤方偏移が大きくなるのは現象論的に正しい。でも皮肉な見かたをすれば、ハッブルの法則は回帰直線であり、そうなるとハッブル定数はその比例係数であろう。
回帰直線であるならば、それは近似でしかない。均一に膨張しているというのは、チッポケな地球という狭い針穴から巨大な空間をのぞき見した結果でしかない。
とまあ、難癖をつけることは可能でじゃなかろうか。
近年、ダークエネルギーなるものを天文学者たちは導入した。ハッブルの観測をより精密化したところ、宇宙の膨張速度は重力によって減速するどころか加速している、すなわち斥力がどこかで働いているとしか考えれば説明できるということらしい。
暗黒物質(ダークマター)が話題になり、その正体が何かも解明されないうちに、「ダークエネルギー」が付け加えられてしまったのだ。しかも、ダークマターやダークエネルギーの存在量は、既知の物質を超えている。
これはこれで進歩であろうけど、やはりどうしても井の中の蛙というかカゲロウのような短い時間での観測をたよりにすべてを語りつくし、究極を理解しようという野望であろう。
宇宙がダークな事象に満ち溢れているという現代天文学の説を暗黒神話の創造者であるラブクラフトは、どのように受けとめただろうか。きっと想像たくましい彼のことだから、宇宙の支配神たちはダークマターで出来ていて、ダークエネルギーを自由に扱うなどと夢想しただろう。
『異次元の色彩』なる彼の強烈な中編は、凝縮されたダークエネルギーがアメリカの田舎町に出現して起きる事態なのかもしれない。
そのものズバリでは、尊敬する諸星大二郎の『暗黒神話』なる作品がある。こちらはヤマトタケル伝説を自由、かつ奔放に拡大したロマンである。
しょせん言葉のアヤでしかないが...
科学は彼の時代より遥かに進歩した。その結果、宇宙は不可解な物質やエネルギーが圧倒的だと判明したのだ。
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