人類補完機構とク・メルの彼方へ

コードウェイナー・スミス人類補完機構シリーズは、得も言われぬ異世界だ。動物由来の人類とロボット、限りなく多型化した人類の末裔。それにロードとレイディと敬称がつけられている長官たちの統治する人類補完機構。ロードとレイディはそれぞれ抜群の政治力と人格の持ち主だ。
そして、主人公たちの肉の痛みが心の痛手となってゆく様が語られる。

個別のストーリーはともかく。
名翻訳者である伊藤典夫浅倉久志の典雅な命名によるタイトルだけでも、十分夢心地にさせてくれはしましいか。

酔いどれ船ランボーの詩にイメージを託した愛の物語。
「スズダル船長の罪と栄光」この未来のプロメテウスは無意識の苦痛と陶酔により罪を永遠にあがなう。
「アルファ・ラルファ大通り」遠い未来のポールとヴィルジニーの無垢と冒険。古代のテクノロジーが残存する大通りはどのような道なのだろう。大空にかかるアーチのようなものだろうか。

 そして、表紙イメージを掲げたノーストリリアだ。米国アマゾンでもこの表紙は見つけれられない。ロッド・マクバンの投機による巨大な収益をめぐるエキセントリックな青春と神話のリミックスな物語りだ。
 ここでも、マクバンの脇にしゃなりと立つク・メルの異国性・異界性が際立つ。ク・メルはガーリイ・ガール=もてなし嬢だ。

 ク・メルはフロアに目を落とした。赤毛がペルシア猫の毛のようにふわりと揺れ、頭がまるで炎につつまれているように見えた。その目は人間のものだが、光が当たると反射するという違いはあった。

 やがて、この気品がある猫娘のク・メルは遠い未来社会を無意識のうちに変革するのだ。wikiによればク・メルがネコミミ・コスプレの源流になったのだとか。

ノーストリリア (ハヤカワ文庫SF)

ノーストリリア (ハヤカワ文庫SF)

合掌:浅倉久志さん