ゲーデルがモチーフになるサスペンス小説の原案

 論理学者ゲーデルの逸話でアメリカ合衆国憲法に内在する大きな問題を指摘したのは、とてもとても興味深い。

 その経緯はこんなところだ。
 母国オーストリアチェコ)からアメリカ合衆国に亡命した。ヒトラーのもとナチの一党独裁を怖れてのことだ。友人のススメもあり、アメリカに帰化する道をゲーデルは選んだ。アメリカ市民となるには合衆国憲法を学ぶ必要がある、ところが生真面目なゲーデル憲法にロジカルな大穴が
あり、独裁者を生み出す可能性があるのを発見してしまう。彼は不安にかられて、市民宣誓の場面でもそれをあげつらって、危うく市民権を取り損なうところだったとされる。実話である。

 不完全性定理で有名なゲーデルであるが、このネタをもとにした小説がないのが惜しまれる。
そう、たとえば次のようなサスペンス小説のネタを提供する。

若く魅力的な中国人女性テイ・シェンは、プリンストン大学に留学している。彼女の専攻は論理学である。図書館で偶然のことからゲーデルの遺稿を発見する。
そこには、アメリカの政治体制のもとで、いかにして合法的に独裁者になるかの演繹的な理論が提示されていた。
 彼女はそれを知人の政治哲学者マイケル・ホンデルに見せる。
だが、彼は何者かによって殺される。あたかも政治的な風雲児オマハ上院議員が急速に権力と人気を掌中してゆく同じ時期であった。
 彼女も何者かにつけ狙われる....。
アメリカ民主主義は風前のともし火にさらされようとしていた。

 その逸話については、この書物にも触れられている。
サイクリック宇宙論(宇宙が輪廻する壮大な理論)の「ゲーデル宇宙」モデルなども良いネタになるのだが。

ロジカル・ディレンマ ゲーデルの生涯と不完全性定理

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