組織衰弱を防ぐネットワーク科学

 なんどかブログに書いたが、18世紀フランス革命のプロセスは企業人の参考になる。
このプロセスとは、立憲議会が国民の期待をになって成立してから、テルミドールの反動により国民主体の民主制が崩壊する過程を指す。
 その間、わずか5年弱。1789年から1794年までの短い期間だ。

 ここで本テーマの味付け(組織の原則というべきか)を安田雪の著作から引用しておくとしよう。

  • 密度の高いネットワークは、頑健である
  • 密度の高いネットワークは、情報収集機能が弱い
  • 密度の高いネットワークは、空隙に乏しい

 これが崩壊プロセスを読み解く味付けである。このネットワークとは、人脈のことだ。

 革命史の流れはミシュレの壮大華麗な名著『フランス革命史』をお読みいただくとしよう。
 どれだけの人材が立憲議会から5年で亡失したか、をおってみることにする。


 立憲議会の全員集結
  ラファイエットタレイラン、シエース、バイイ、ミラボー
  ↓
 三頭派のリーダー=フイヤン倶楽部の政治先導者
  パルナーブ、ヂュポール、ラメット兄弟
  ↓
 ジロンド派が台頭 ブルジョアによる主導
  ブリッソー、ヴェルニョ、コンドルセ、ガデ、ロラン、ペチヨン
  ↓
 モンターニュ派独裁へ 急進的民主派の台頭
  ロベスピエール、マラー、ダントン、エベール、サン=ジェスト、デムーラン
  ↓
 モンターニュの自己収縮 派閥の相殺
  エベール粛清、マラー暗殺、ダントン&デムーラン排除
  ↓
 テルミドール反動 保守穏健派の逆襲
  ロベスピエール派崩壊

 立憲議会の議員たちは多士済々だった。中でもミラボーは衆目と期待を一身に集めた逸材だったが、病死する。途中でラファイエットなど貴族系の議員は亡命しだす。外交の達人タレイランや第三階級論のシエースは身を潜める。
 ジロンド派は富裕市民層の代表であったが、やがて政権の中心から剥脱、多くがギロチンの犠牲になる。ロラン夫妻などは夫婦そろって犠牲者となる。
 このあたりから、『密度の高いネットワーク』が形成される。
 それはモンターニュ派だ。いまだ民意はこの派にあった。
 あとがイケナイ。
恐怖政治が止められない。自派の内部分裂を止められない。
 極左のエベールを裁く。マラーが殺される。
 なかでも惜しまれるのは、寛容主義のダントン派の粛清である。これはロベスピエール自身の右腕を喪失するのに等しい行為であっただろう。
 残ったモンターニュ派ロベスピエールと分身のような密度の高い集団だった。けれども多くの人びととの「つながり」は失われていた。ロベスピエールは革命に身を捧げた有能な弁護士であり、革命の燭天使サン=ジェストは軍事的才幹を若くして発揮していた。
愚か者集団は生き残ったのではない。純粋に革命理念を信奉するエリートチームであった。にしても没落は不可避だったのだ。

 どうであろう。「密度の高いチーム」は企業内で生じていないであろうか?
断じて無能ではない。優秀な一団の人びとの集まりだ。
経営陣で組織が煮詰まってゆく、あるいは互いにYes-man集団に変質してゆくなどだ。最初のうちの成功があるからこそ、そうした集団を形成できる。
 しかし、画一思考とマネジメントが習い性になると変質が起きるのだ。
では、どういう手をうてばいいのか。

 ここでの処方箋はこうなる。

  • 弱い紐帯は情報収集機能に富む
  • 異質な他者との接触を重視しよう

 ふたたび下記の安田雪の著作からである。この本は著者が実践的なネットワーク分析の成果を世に送り出した始めての快著だと思う。ビジネスパーソンには馴染みのある文章と用語と実例で説得力が増した。

人脈づくりの科学 「人と人との関係」に隠された力を探る

人脈づくりの科学 「人と人との関係」に隠された力を探る


ミシュレの名著は文庫の名訳で読める。

フランス革命史〈上〉 (中公文庫)

フランス革命史〈上〉 (中公文庫)

どの描写をとっても雄渾であり無駄がない。
フランス語がダメな身には、出来れば全訳が欲しいところだ。

 生態学や進化論での競争についての『ガウゼの法則』とも関連する。それはこちらを読まれよ。
http://d.hatena.ne.jp/Hyperion64/20100804/1280926527