数学者の自伝って案外少ない。有名ドコロでハーディの『一数学者の弁明』くらいか。だが、自伝の体をなしていない。思いつくままの回想だ。
日本には数学者の自伝として『一数学者の回想』がある。小倉金之助だ。今となっては、数学史家として有名であるけれど、昔は立派な数学論文をモノしていた。
この自伝で面白いのが、高木貞治が国際学会で論文を棒読みしていただの、寺田寅彦が長岡半太郎批判をやっただの、そうした人間模様だ。おまけに小倉は数学界の大御所、菊池大麓を俗物と片付けている。なかなか痛快だ。
不運な三上義夫の科学史の業績を称える墓碑銘をこの書に残したのも感慨深いものがある。三上の著作は誰もがちょっとでも手にとって欲しいものだ。
ま、一番の読み物はどうして、数学などという益体もない学問に引き寄せられていったかを回顧するところだ。一般人からして無味乾燥な記号と数の世界が、かくも魅力的で人を迷わせるものか。
- 作者: 小倉金之助
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- 発売日: 1967
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- 作者: 三上義夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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BGM 数学者どもの夢の跡