原子論者(atomist)としての開祖はその師匠のレウキッポスになるが、内実ともに原子論を大成させたいのはアブデラのデモクリトスである。下の彫像は珍しい写真だがイリンの『人間の歴史』にあったものだ。
その表情に笑う哲学者の面影がある。
ここで取り上げるのは他でもない、デモクリトスは自然哲学者であり、かつ数学者でもあったからだ。しかも、その著述名だけが伝承されている。残存していないことについてはプラトンが生前、そう願ったという逸話がある。
全百冊といわれるそのなかで、数学に関するものは下記の5冊だ。残念ながらどれも残存していない。
1)意見の相違について、または円と球との接触について
2)幾何学について
3)数
4)幾何学的な
5)無理の線と立体(原子)とについて
この最後の著作名は注目に値する。幾何学と原子論を一体的に論じている!らしい。きっと、ここでは18世紀の物理学者の先鞭をつけているのだろう。
その主著は『大宇宙』というから素敵である。1000年後のアレキサンダー・フンボルトの先駆けだ。かなりの名文であったらしく、アブデラ市民により賞金まで出ている。
その洞察力と独創性については、半ば敵対者であったアリストテレスによっても賛美されている。
その数学的業績としては、アルキメデスが『方法』で角錐や円錐の体積がその底辺を共有する、同じ高さの角柱や円柱の体積の1/3を証明したと伝えているのだ。ヒースによれば無数の薄円盤にわけて円錐を計量したらしいという。
デモクリトスの数学力は半端な能力ではあるまい。ある意味、科学者としてはアリストテレスに比肩できるくらいの業績を書き残していた可能性もある。
ヘーゲルはその有名な哲学史で、嘲弄するためにデモクリトスの「霊魂は球形の原子である」を引用していますが、どうも原子論者を正当な位置づけをしているように思えません。
生物学的な論述の断片も伝えられているし、その100年にもおよぶ人生の最後には自己治療で親族に迷惑をかけないような期日まで生きながらえることで生涯を閉じた。数学・天文・物理・生物と万能の科学者のイメージがあるデモクリトス。
まことにその業績が残存していないのは残念至極ですね。
【デモクリトスの参考書】
- 作者: G.W.F.ヘーゲル,長谷川宏
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 1992/01/01
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- 作者: T.L.ヒース,平田寛,菊池俊彦,大沼正則
- 出版社/メーカー: 共立出版
- 発売日: 1998/05/12
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- 作者: 斎藤憲
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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- 作者: 日下部吉信
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ちなみにアブデラの位置はここである。