経済メディアの報じる中国経済の減速

 今月の「日経ビジネス」、「東洋経済」、「週刊エコノミスト」が立て続けに中国経済の減速を報じている。日本への影響を考えれば由々しきニュースであるが、他方で「さもありなん」と頷くむきもあろう。
 なかには、反日暴動で法治国家としての失態の代償だと評する論調もある。
 反日暴動は氷山の一角でしかない。「No.3271. 2012年11月8日(木)放送. 最高指導部交代 〜中国はどこへ向かうのか〜」によれば、年間20万件の民衆の騒ぎが発生している。たまたまその矛先が日本に向いたに過ぎないのだ。

 成長率が8%以下になっても7%で成長しているのだからいいではないかと素人である自分などは考えてしまうが、「週刊エコノミスト」によれば高度成長を当て込んだ過大な設備投資が在庫を異常に膨らませると警鐘を鳴らしている。

 成長が停滞するときにこの人造的超大国はどのような状態になるか、想像するだに恐ろしい。すでに反日暴動で萌芽をみせた国内の亀裂が共産党を激震させると識者は予想する。訒小平路線と復古した毛沢東路線の激突だ。
 訒小平自身はなみなみならぬ政治力と指導力を併せ持つ傑物であった。三度の失脚から復活しているのだ。
1980年頃までの中国の生産力の低迷を乗り切るには市場原理の導入しかないと見越し、中国という巨船の大梶を切ってそれを江沢民に渡した。農業から工業重視へ集団生産から個人生産への方向転換を果たした。
 火のついた大衆の欲望は膨張しつづけ資本主義的な景気刺激策を煽るであろうし、その反対側の先行きがなく不公平感を募らす人びとは共産主義の復古を叫ぶだろう。
 一党独裁と資本主義の同居体制=国家資本主義、これが途轍もない規模の社会実験であるのは言うまでもない。この場合、カール・ポパーの主張とアクトン卿の警句が思い合わされる。
 ポパーは言う。漸進的=ピースミールな社会実験のみが害が少ない。国家資本主義は訒小平の生み出した奇怪なミュータントであり、安定的な政体をうみだす基盤ではなかろう。不幸にして中国には中間階級がなく政治的均衡をとろうにもその支持層がいない。
 アクトン卿は言う「絶対権力は確実に腐敗する」現に汚職と腐敗は党を蝕んでそれを浄化するのは極めて困難であろう。
 歴史上の突然変異体である「国家資本主義」は羅針盤のない巨船なのだ。かてて加えて、その船は洋上火災を起こしているのだ。
だからこそ中国人のために言いたい。毛沢東思想に忠実であればよかっただろうに!
 なぜなら、経済成長による豊かさの追求は富の格差を必然的に招き寄せ、かつて富の「階級」を解消しようとした建国の理念と大きな乖離を生じるからだ。
 訒小平は主張した「貧困は社会主義ではない」
それはそれで見識であろうし、誰も否定できない。
 全員があまねく豊かさを享受できるのは、少ない富で足るを知る素朴なライフスタイルでのみありうるのではないか。
 毛沢東文化大革命はその本質的見解では正しい。党員が富を追求するとは本末転倒なのだ。だが、社会主義はそのままでは失敗に終わる宿命であったのは、カンボジアクメール・ルージュの例や東欧やソ連の瓦解で明らかとなった。
 この「豊かさ追求」の代償はあまりに大きいものだ。経済成長などという国家の末期を早める愚かな選択などしなければよかったのに!
 全員が清潔な貧困を維持できれば、それが一番社会主義的なのだ。


 近代国家からすれば文化大革命は大いなる愚行である。しかし、共産主義の若返りではあった。

北京烈烈―文化大革命とは何であったか (講談社学術文庫)

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毛沢東語録 (平凡社ライブラリー)

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 わずか15年ほど前にも訒小平後の中国の行くすえが憂慮されていた。天安門事件の後遺症が冷めやらぬ時期のことだ。

トウ小平の遺産―離心・流動の中国 (岩波新書)

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