大江匡房の『傀儡子記』の一節から

一畝の田をも耕さず、一枝の桑をも採らず
故に県官に属さざるも皆土民に非ず、
自ら浪人に限る。上王公を知らず、
傍らに牧宰を慴れず。課役無きを以って
一生の楽と為す

 中世の漂泊民、傀儡(くぐつ)は魅力的なノーマッドであるし、その存在は現代人にとって、はるけくも懐かしい。
 だが、決して、縁遠い不可解な異人たちというわけでもない。
土地に縛られるのが常民=農民であり、戸籍に縛られるのが現代人だ。
 だが戸籍の管理者=牧宰をネグレクトして、つまり、国家の覊絆を振り捨てて課役無しの生き方は、意外にも近未来的な生き方かもしれない。
 そのためにはアジールを蘇らせることが必要だ。ネットがアジールになるとは考えめさるな。ネットはワイヤード=覊絆、そのものだ。
 ホームレスという脱色&無力化された存在などではなく、異能の集団として何者にも縛られることのないノーマッドが、この敷島の大地に跋扈することを夢見るのは、烏滸なことだろうが、愉しい。