著名なる数学者のケンミンショー

 三上義雄の和算史である『文化史上より見たる日本の数学』をパラパラ読みしていたら、「数学者の地方分布」なる節があった。
 三上は江戸時代の和算家の出身地を総括している、その論説によれば、かくのようであるという。

和算は実利的精神の勝った土地に栄えずして、理想的精神の流れているところにもに起こったらしい

 地域別でいうと、江戸と大阪は多く、関孝和の出た上州(群馬)は意外とダメ。薩長土肥などではろくな和算家がいないと弾劾しているところもあって、興味深い。
 ちなみに〜、三上義雄自身は広島県出身であった。

 この説は近代日本の数学者ではどうであろうか?
自分の記憶にあるような数学者の出身地を調べてみた。明治時代以降のざっと40人ほどだ。

東京都 
 彌永昌吉、河田敬義、菊池大麓、飯高茂、小平邦彦、吉田洋一、佐藤幹夫、伊原康隆、銀林浩、窪田忠彦、一松信、竹内端三、矢野健太郎
愛知県
 森重文、和田秀男、梅村浩、永田雅宜、飛田武幸
京都府
 岡潔、園正造、足立恒雄
石川県
 赤摂也、竹内外史、小松勇作
静岡県
 志村五郎、赤池弘次、寺田文行
大阪府  
 岡潔角谷静夫
三重県
 伊藤清、藤原松三郎

栃木県 黒川信重
群馬県 岩澤健吉
広島県 吉田耕作
大分県 末綱如一
岐阜県 高木貞治
埼玉県 谷山豊
千葉県 飯高茂
山口県 広中平祐
山形県 南雲道夫

 「薩長土肥」の偉大な例外は広中平祐であろう。群馬県(上州)の例外は岩澤健吉である。
 概していえば、東北と四国、九州が少ないという傾向はあるようだ。数が少ないのであまり大したことは言えないのだが。
 東京、名古屋、大阪のような大都市圏は数学のような孤絶した探求心を生み出しがちなのだろうというのが自分の推測である。もう一ついえば、静岡県海軍兵学校の伝統があり、石川県は真宗の土地柄か物事を突き詰めて考えるタイプの人材がいた(西田幾多郎鈴木大拙
それにしても、神奈川県と兵庫県は存在感がないなあ。
 三上義雄の説は、G.H.ハーディの実利や現実に関わる数学よりも理念を扱う純数学を重んじるという『ある数学者の生涯と弁明』の所説を思い出させた。


文化史上より見たる日本の数学 (青空文庫POD)

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ある数学者の生涯と弁明 (シュプリンガー数学クラブ)

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 そういえば、ハーディというと彼のラマヌジャン講義が今月、新刊本で出ている。