寺田寅彦の映画鑑賞Ⅲ

  寺田寅彦のエッセイ「映画雑感Ⅲ」で論及している『Poil de Carotte(にんじん)』(1932年)フランス映画を掘り出すことを得た。
寺田はこの映画の出来をきわめて褒めているので、それだけでヨシとしよう。YouTuneで1から9まで
揃いで鑑賞できる。最初の二つだけをここにクリップしておく。

 寺田は昭和初期にはほぼ毎月のように映画を観ていたようだ。彼の好みは自然界を描いた作品に偏るところがある。動物が主人公の物語やドキュメンタリーはその新奇さに毎回、瞠目している。

 ついで発見したのは、『カルネラ対ベーア(The prize fighter and the lady)』(1933年)のダイジェスト版があった。


 実は、このミュージカルは岩波文庫版の注釈の間違いである。これは、ちゃらけたミュージカルである。

 寺田が見たのは、どうやらこちらの試合実写のドキュメンタリー版だ。この対戦は拳闘史上有名な試合だったらしい。鍛えられた肉体の激突を武人国の学者らしく怜悧に観察している。


 最後に発掘できたのはアメリカの名画『或る夜の出来事(it happened one night)』(1934年)である。寺田は近くの席で、映画に共鳴して嬉しそうに笑う婦人に注目している。映画に描かれた道徳によりて東邦の小国の道徳が映画にどう影響されるかを思いめぐらしている。

 今となってはどうということもない男女の関係であるが、当時はカルチャー・ショックがあったかもしれない。アカデミー賞受賞作である。


寺田寅彦随筆集 (第5巻) (岩波文庫)

寺田寅彦随筆集 (第5巻) (岩波文庫)