一周忌である。2010年5月に瞑目されたマーチン・ガードナーの業績を私の知る範囲でまとめおくことにしよう。
なんといっても、自然科学の啓蒙書(こういうふうな表現は古いのだそうだ)として燦然と輝く名著は「自然界における左と右」だと思う。化学、天文、気象(台風の渦からお風呂の渦まで)、結晶、電磁気、生物界、宇宙、そして素粒子における対称性の破れに行き着くまで、縦横無尽に左右性を論じ、自然界を横断的に割りきってみせた、その恐るべき手腕と見識には、脱帽する。
いまだにこの書を凌駕する一般向けの自然科学本は、ないのではなかろうか?
スバらしい知的な冒険であり精神の遺産のヒトコトに尽きる。
- 作者: マーティンガードナー,Martin Gardner,坪井忠二,小島弘,藤井昭彦
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 1992/05/01
- メディア: 単行本
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一般によく知られているのは、サイエンティフィック・アメリカン誌(日経サイエンス誌)に長期にわたって連載された「数学ゲーム」とその派生書籍であろう。
氏の文学的・哲学的素養が遺憾なく発揮された「全」「無」、そして「単純であるとはとは何か」。こうした読み応えがある数学コーナーを氏以外の誰が創作できるだろうか?
サム・ロイドのパズルを知らしめた「消える小人」などはなんとも言えない深みを湛えた名編だった。幾つかオリガミに関する記事もあり、日本人とのパズルを通じた交流をうかがわせる。
スマリヤンやホッフステッターの「この本の名は何か」「ゲーデル、エッシャー、バッハ」の魅力を伝えたのもこのシリーズだった。
また、Exp(π√137)が自然数であるというエープリルフールは、ドッキリカメラの数学板だった。
コンピュータの黎明期と重なり、カオスやフラクタルの紹介をその生誕の地アメリカからレポートしてくれた。その中でも「ライフゲーム」のブームの仕掛け人としてだけでも氏の名前は後世に残るであろう。
彼の数学的業績といってはなんだが、マーチン・ガードナーの定理というべき自然数についての定理がある。
定理「つまらない自然数は存在しない」
証明「つまらない自然数の集合があったとせよ。その最小の数が定義できる。ところが、それはつまらない数の最小であるという点で「つまならなくない」。よって最小の数はない。故につまらない自然数の集合は存在しない」
最後にあげるべきは「インチキ科学バスターズ」としての活躍であろう。
その代表作「奇妙な論理」はある意味、抱腹絶倒のトンデモ科学叩きの雄編であった。
病原菌は病気の部位から発生する結果である、とかがそうだ。
アメリカではサイコップの有力会員としても知られていた。アシモフやスマリヤン、カール・セーガンなども会員だったのだ。ある意味みんな過去の人だけど。
サイコップは超心理学への方法論的挑戦とかも果てしない問題を投じた。そのせいか、いまだに超心理学は自然科学に脱皮できないでいる。
奇妙な論理〈1〉―だまされやすさの研究 (ハヤカワ文庫NF)
- 作者: マーティンガードナー,Martin Gardner,市場泰男
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2003/01
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95歳で薨去するまで時代に知的刺激を与え続けた巨人であったと言えよう。
彼の肉声を伝える動画があるので紹介しよう。