ニッチ戦略についてのうんちく

 企業のニッチ戦略などとビジネスパーソンはよく発言する。他社の容易に追随しえないビジネスドメインを見つけて、そこで根を生やす。そういう意味であろう。

 バイテク産業の例で説明しよう。かつて「モンサント」という超有力企業があった。そのヒット商品に「ラウンドアップ」という除草剤があった。
 この除草剤は従来の商品の常識をひっくり返した新製品であった。
この製品、当初は業界人の笑いものだった。
その常識とは次のようなものだ。

1)除草剤はたちどころに雑草をからすこと
2)除草剤は雑草を枯らし作物に無害であること
3)除草剤は農家の手間を減らすため土地に長く残留すること

 これだけ見るとシゴく当たり前に思える。
ところが「ラウンドアップ」はこうだ。
1)一週間以上たたないと枯れない
2)植物は全部枯れる
3)日光と雨ですぐに効果消失する

 パッと見、「ラウンドアップ」はダメダメ製品と思えるであろう。
ところが売れ筋商品になるのだ。
 なぜか?
ニッチを見出したからである。
 道ばた、フェンス、土地のすき間など空き地にまく除草剤という市場を開拓したからだ。
開墾したばかり土地にも使えた。
 要するに 化学的毒性が弱く土にとどまらない性質を売りにしてしまったのある。

 さて、この「ニッチ」なる言葉は生物学からの借り物であることは、常識であろう。
 ニッチ(niche)とは、もともとは壁面に設けた窪み(壁龕:へきがん)を指す建築用語だ。それを生物学者たちが「生態学的地位」という概念に転用した。

 ニッチ概念の祖型は生態学者チャールズ・エルトンの『動物の生態学』で登場する。

 ニッチは動物の生物学的環境における位置、その食物ならびに敵に対する 諸関係を意味する

 ここでニッチは動物、そして食物の獲得に対して定義付けられているのに注意したい。
 あくまで動きまわる生物、獲物を敵対する種と競いあう生物についての定義なのだ。
植物にはニッチがないのかなと思う。その疑念は後回しにしよう。

 いかにも、企業は動物に比定されているわけだ。それはそれでうなずける。
市場の獲物(顧客)を求めて殺到するイメージはまさに動物的である。野生の動物的である。敵対する種がうようよするなかで、生き残り進化するというのも動物的であろう。
 けれども植物的企業というのはないのであろうか?
どうも老舗や長寿企業というのは植物型であるような感がある。どっしりと定住している。獲物を能動的に獲りに行かずとも、獲物の方から訪れる。急速な成長や改革はしない。ゆるやかに日を浴びて雨に打たれつつしめやかに育つのだ。
 植物的な組織といってよいのではないか。

 ニッチ戦略はそうなると汎用的な企業戦略とばかりは言えなくなる。ニッチは市場の隙間を発見し、抜け目なく獲得する、そうした動物精気にあふれた企業に向いた戦略であると文学的に表現しておこう。

侵略の生態学

侵略の生態学

 このチャールズ・エルトンの侵略生態学は、グローバルビジネスを考える上で、もう一つの生物学的メタファーを提示した。

 孤島の生物種を考えよ。島の環境にピッタリと適応して何不足なく生存している安定な種だ。『適者生存』の一つのあり方だ。そこに強烈な外来種が上陸する。外来種により在来種は駆逐されてしまうことがママある。
 このビジネス的メタファーはグローバル化である。
関税などの経済的障壁や規制など法的障壁を取り払うと在来企業が外資企業に駆逐されてしまう。
 なぜなのか?
 在来企業は適者生存していなかったのか?
この場合は価格と商品の競争力で説明はできる。多国で製品・サービスを磨いてきた企業は在来種にない持ち味や魅力を持っている。そうでなくともスケールメリットで価格競争力があるのだ。障壁がなければ外資企業が優位にたつのは自然といえるかもしれない。