中世末期に生きたドイツの枢機卿ニコラウス・クザーヌスの思想というのは数学的に面白いところがある。
著作のタイトルからして逆説的だ。『知ある無知(De docta ignorantia)』。この書はスコラ哲学というよりは思弁的自然学の研究であるようだ。
クザーヌスを有名にした「反対物の一致」はこの書で主張されている。
われわれは、運動において端的に最小のもの、したがって固定した中心に至ることはない。というのも、最小のものは最大のものに合致しなくてはならないから
なぜ、「最小のものは最大のものに合致しなくてはならない」のか。経験可能なものは最大なもの、最小のものではないからだ。
この原則から、地球は宇宙の中心ではないという主張がでてくる。宇宙には制限はつかないというのも同様に確からしくなる。
この延長としてキリストの死は正当化される。
最大のものは最小のものと一致する。故に、最大の謙虚さが高邁さと一致、最大の有徳者の十字架刑と神の栄光と一致するのだ
「理性は真理と等価ではない...真理への理性の関係は円に対する多角形の関係用のようなものである」
知というのは運動であり探索であり、真理への無限の接近なのだとクザーヌス枢機卿は主張した。
つまるところ、「無知であることを認知すればするほど、それだけいっそう知者となる」のだ。ここまで来るとスコラ哲学の否定が地平線に見えてくる。ギリシア哲学や科学が現れてくる。
あえて言えば、クザーヌスの自然学的な思弁はやがてライプニッツなどの無限小の扱いへと流れ込んでゆくのだ。
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