太平洋戦争での数学者の戦い

 やはり高木貞治は暗号解読に駆り出されたようです。一松信の「暗号の数理」にちょっとだけ匂わせてあったので、気にはなってました。
一松のコメントでは先生たちは黙して語りたがらないので、自分もあえて書かないのだというニュアンスです。

改訂新版 暗号の数理―作り方と解読の原理 (ブルーバックス)

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概して、アメリカの科学者の臨戦体制に比較したら、日本はほんとお粗末でした。マンハッタン計画は周知でしょう。それと並んでVT信管の開発は巨費が投じられました。開発主導者は応物ですね。

マンハッタン計画―プルトニウム人体実験

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一流の学者を組織化して効果的に兵器開発を行った連合国には、ここ(暗号解読)でも大きな差がついてました。

エニグマ・コード―史上最大の暗号戦 (INSIDE HISTORIES)

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エニグマ [DVD]

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なにせチューリングを動員してたんですからねえ。チューリングでっせ!
コロッサスという解読専門の計算機械を運用していた。映画「エニグマ」でその機械の外装は再現されてました。
また、ORの方法論を整えて組織的に索敵理論やロジスティクス、品質管理などを検討していたわけです。

ランド 世界を支配した研究所

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さて、昭和20年になって高木ら東大数学者らも米国の暗号解読に協力することになった経緯はこちらのサイトがいいでしょう。資料よくぞ見つけた。ご立派です。
http://d.hatena.ne.jp/jjtaro_maru/20100312/1268349573

高木の専門である代数的整数論素数に関する数理でもあったので、あながちかけ離れた分野でもなかったようです。素因数分解に基づくRSAとDESのようなmethodは将来の技術であったのでしょうが、
頻度解析や統計はパターンを読み込むのに役立ったでしょうね。
 ポーランドエニグマに関する貴重な情報を英国に提供してましたが、日本には伝えてくれませんでした(敵国だから当然ですけど)。別稿で触れたようにポーランド数学は日本数学以上の発展をしてました。
とにかく、その結果というわけでもないでしょうが、暗号解読と高等数学の関係なんて軍部はギリギリまで知らなかったんですねえ。

 もう少し学術的な学者たちの挙国体制の研究をあげるなら、広重徹のこの本くらいしか浮かばないです。

科学の社会史〈上〉戦争と科学 (岩波現代文庫)

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 この本に従えば、満州事変から日中戦争のまでの期間に14の研究機関が創設されている。また、1938年に荒木貞夫が文部大臣になると同時に、科研費が大増額され基礎研究と科学振興の強調がなされたという。どのように使われ何が業績となったか是非知りたいところです。遅まきながら植民地学も着手されてますねえ。

 物理学の活動に関してはかなり伝聞が残されました。仁科門下の原爆開発の予備研究や朝永らの磁電管の開発、つまり理研の活躍は物理学史にページがさかれているけれど、さあて数学者たちはどうなのだろう。暗号解読の他にも何かあるのではないだろうか?
戦前から戦後にかけて数学者はかなり枢要な研究をなしてます。掛谷宗一、角谷静夫、南雲道夫などがこの時期に精力的に研究しているわけです。伊藤清もやや下の世代に属してます。
阪大には留学帰りのネーターボーイズがいましたし。
 これに関して調べてみたのですが、高木貞治の伝記や回想録というのが一書もないのには驚きました。なんで〜!?
 数学者ってお互いの人生に無関心なのでしょうか。なにせ自然界と繋がりのない学問ですからねえ。