戦争と数理科学

 第二次世界大戦は科学者も総動員された。そして銃後の頭脳の戦いをたたかった。
兵器や火薬とは別の次元での知能の戦いがあったのだ。とくに数理系の科学者が動員されたのは特筆すべきだろう。

 ヨーロッパ戦線ではレーダーと暗号であり、太平洋戦線では原爆と暗号だった。暗号解読が数学思考力の戦いだったのは後になって明らかにされている。ここにも書いた。
 それ以外にも、あまり話題にはならないがVT信管がある。*1
 弾丸に埋め込まれたVT信管は機体を感知すると爆発する近接センサーがあり、著しく日本の空戦力を低下せしめた。マリアナ沖海戦ゼロ戦は無力さを露呈した。*2
 VT信管のように直接命中せずとも効果がある弾丸の設計には数理的思考がある。

また、直接的なORの例にはランチェスター・リチャードソンモデルがある。
その辺の事情については斧田太公望氏の力作に、緻密な説明がある。

競争に勝つ科学―ランチェスター戦略モデルの発展 (1980年)

競争に勝つ科学―ランチェスター戦略モデルの発展 (1980年)

 特攻に対してもVT信管とそれによる弾幕の構成法をOR的に解析して、カミカゼの威力をそいだ。
 確かウィーナーが関与していたはずだ。そう、彼の『サイバネティックスはいかに生まれたか』にある。ウィーナー・ホップ理論の着想がどこにあったかというと操縦士と高射砲の射撃手との関係からだ。

われわれは、帰ってくると、航空機の進路予測の問題に出てくると同じ種類の不規則た函数を描き出す実験装置をつくった。

 もうこうなると合理的思考法とその徹底という面で彼我の差は隔絶していたのだと理解しよう。
 その怜悧な戦略的な方法論の研究がこれだったわけだ。

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

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*1:電子工学と真空管の粋をこらしたこんな技術、当時の日本には無理だよ。

*2:こんな実情を知れば知るほど、日本の将兵が哀れでならない。