流体的にみたる孤立特異点の模様

 流体力学では複素関数Fを二次元にける流れ(非圧縮流体)のモデルとみなす。複素ポテンシャルとも呼びます。

とくにFを実部と虚部に分けて、虚部Ψを流れ関数という。

 

  

F(z)=Φ(x,y)+iΨ(x,y)

虚部Ψ=一定の等高線は流線という。流れを表す線というわけであります。

これを孤立特異点に適用してみます。

 いつものように f(z)=Exp(1/z) を対象にします。比較のためにg(z)=1/(1-z)も扱いましょう。

そして、いきなりf , g を計算する前に有限級数の原点付近(z=0)での展開を逐次的に図式化します。多くの極を重ねていくと孤立特異的になるわけである。

    

    

 それぞれmを極限まで大きくすれば、f(z)=Exp(1/z) とg(z)=1/(1-z)になる。

 例えば、m=2として、xとyが-1/2と1/2の間で流線の等高線図をそれぞれ描く。

上がf2, 下がg2である。

 

あまり差がないようだ。しかし、m=10になると対称性が違ってくる。

 

これらをそれぞれ動画にしてみた。mが1から40までの連続描画であります。

因みに、今井功の流体数学(下の参考文献)によれば極は湧き出しと吸い込みが合体したと解釈できる。

 例えば1/z^2はダイポール(双極子)というものに相当する。こうした多重特異点を重ね合わせたものが孤立特異点になるようなのだ。

 

fのケース


gのケース


 fをもう少し拡大した範囲(-1/10から1/10)できめ細かく計算してみよう。




 

【参考文献】

 かつて学部時代にお世話なった古典。

 

 複素関数論を流体力学的に逆写像した珍しい本でありました。物理屋には有難い本

 

興味本位の基本対称式の計算からの実験数学

 n項の基本対称式のパターンがn個あるという前回の話の継続であります。

すなわち、5個の変数があれば、

   

次のような5個の基本対称式の種類がある。

 今回はこれを自然数に対して適用して、素数の出現を表現するという面白半分の試みです。
 例えば、自然数1,2,3,4,5に対して、基本対称式の5種の計算値は15, 85, 225, 274, 120となる。ここでの素数は皆無である。

  n=1から10までにこれを繰り返す、個々の素数判定を可視化してみよう。パスカルの三角形的に表示してみた。

        

白抜き四角が素数であり、黒は合成数である。素数は少ないですね。

 これを(基本対称式+1)で試行しよう。n=5での実例は16, 86, 226, 275, 121だ。

n=1から30までにこれを繰り返す、それらの素数判定結果を表示しよう。

かなり素数の頻度は増加する。であるけれど。目立った規則性はないようだ。

 右隅の□は n!+1が素数になるケースだ。

これだけでも計算時間は1時間かかった。

 ほかに素数が頻出するのは、偶数列からの基本対称式だろうか。

つまり、{2, 4, 6, 8, 10}の5個の連続偶数から、{30, 340, 1800, 4384, 3840}が生成され、それぞれに1を加算して、{31, 341, 1801, 4385, 3841}が生まれる。

一番目と三番目が素数になる。これをn=30まで計算したのが下図である。

 一番目の基本対称式(単純和)は14回素数になっている。

打率5割に近いので、大谷翔平も顔負けであります。

興味本位の級数和計算からの実験数学

 基本対称式と逆数和について慌ただしく計算した結果を少数の同好の士に贈るとしよう。基本対称式とは下記のようなものだ。

 五個の項が与えられたとする。

 基本対称式はそこから生成される各項の対称な式の集まりだ。

このケースでは、1を含めて6個になる。

 項数nの基本対称式の数は1を含めるとn+1になる。

 代数学では対称式は基本対称式で表示できるという有名な定理がある。

 これを調和級数に当てはめ、極限値の傾向を探るというのが、計算動機のトリガーであります。

 具体例を5つのケースで試算する。

     

が5項として与えられる。その時、基本対称式は上の例に倣ってけいさんすれば、

    

第二番目がいわゆる調和級数になる。最後の項目は5項目の積だ。

これを限りなく項目数を増やすと第二番目は調和級数で発散し、最後の項目は0に接近となる。

 では、中間の基本対称式はどうなるのか

 つまり、収束するのはどの基本対称式になるのだろうか?  

 これがたわいない計算動機であります。それを計算により追いかける前にもっとシンプルなケースで試算してみよう。

 

1)シンプルなケース 自然数の冪常和

 2のべき乗の逆数でどうなるかを見てみよう。

5個のケース  

基本対称式のセットは

     

もう少し項目数を増やし、10項で同様な計算をしてグラフにしたものだ。

   

 実は第二項は無限等比級数和で2となり、第三項は簡単な試算から4/3に収束するのがわかる。それ以外は無限項ではゼロになる。

 つまり、自然数のべき乗の逆数では下記のパターンだけが有限極限値を持ち、それ以外はゼロを極限として持つ。

 

2)自然数の逆数 調和級数ケース

 このケースは厄介である。数値計算も項数が100いかなくともハングアップするだ。

まずは項数が10程度での傾向を計算してみよう。

  

 第二番目が発散するので悪名高い調和級数そのものだ。このケースでは第三番目が最大になる。


項数が30ではどうなるか。これが自分のPCの単純計算の限界あたりになる。

基本対称式の最初の10項の結果を示す。その下にグラフを提示する。

 



つまりは、第四番目までは調和級数同様に発散するらしい。しかし、第五番目からはどなるか8番目以降はゼロになるだろう。

 初項を50項として8個の基本対称式の集計結果グラフは頂点シフトを暗示する。

続けて、初項を80項として8個の基本対称式の集計結果グラフが下図である。

 こうなると傾向は明らかで自然数のべき乗の逆数のケースとは異なることが見えてきた。和のピークは調和級数ではシフトするようなのだ。

 そうなると項数nに対して基本対称式のピークは何番目になるのかという次なる問題が生じそうだ。

 現時点での項数nに対するピークの予測式を出しておこう [1+ Ln(n)]

ここで、[ ] はガウス記号もしくはFloorだ。この予測が正しければ調和数列の場合にはnが大きくなると[1+ Ln(n)]個の基本対称式は発散し、n- [1+ Ln(n)]個の残りの部分はゼロに漸近的に接近することになるようだ。

二項係数の逆数和を試算したけれど

 みんなのお馴染みパスカルの三角形。

        

これは日本人好みの形状でもあります。なぜなら、積み重ねると富士山的になるから。

 

 この三角形で二項係数を反転したパターンが個人的にお気に入りでした。

           

 このところの暑さに熱のこもった頭でこの逆転三角形を眺めて、試算の衝動に久々に駆り立てられたのは三角形の芯の部分の総和はどうなるかという計算ネタです。

 上の図では一番下の行でn=5に相当するのが、

     

この逆数和はどうなるのだろうか? nを有限な極限値はあるのだろうか?

実はn→∞で「ゼロ」になってしまいます。

しかも。この数列には意外なところに極大値がある。

 せっかくなのでn=100までの計算値を示します。

 

 ここから、極大値と極限値の傾向を予測できる人は凄いです。

極大値は「2/3」、極限値はなんと「ゼロ」ですね。

 下はn=10000までの計算結果です。横軸はnです。

極限はゼロっぽい(誰か証明してえ!)

 

 極大値はもっと手前にあります。n=30までの計算結果です。

 

 お盆休み中の熱平衡状態の大脳がアウトプットしたのはこんな試算でした。

せっかくなので、極限値の表式を書き置きます。

あるいは三角形の両端を含めた型もあるでしょう。

 

 

【続々】基礎的ながら不可解なまでに大きな式変形を要する解析幾何の問題

 前回までと同じような4つの楕円と外接円の原点に対して対称な配置の問題です。しかも、どうやら、こちらの配置のほうがより基本的らしいです。

 基本的であるという根拠は、計算結果がかなりシンプルになることですかね。手計算でもできるレベルといっていい。

 

 ここで注意すべきはa,bを独立に決められないらしいこと。言い換えると楕円の中心位置は偏心率eで制約されるらしい。前回までの配置では楕円の中心はa,bを決めれば自動的に決まりましたが、上図ではそうではないということですね。

 解き方は前回と同じだけれど、第一象限の楕円の接点をx1,y1を選択するのが違い。

  x1→ a s,  y1→ b tとして偏心率eとする。円の半径rは小細工している。

    

と置き換えると楕円同士の接点での方程式とその二つの楕円の表式が決まる。

 これで、あとは s, t, uを解けばいい。見かけは前回よりも複雑そうだが、案に相違してスルスルと解けてしまいます。結果も辛うじてシンプルだ。
  補助理解のための第一象限の拡大図をつける。

 念のために言えば、接点 (s a, t b)は直線上にあるとしていない(実はあるのだが)

 

例によって、a=1のケースで出しておきます。

sの結果は、

tの結果は、

 瞠目すべきなのはuの結果でありまして、これまでになく単純なeの代数式ですね!

uとは、上の図の円の半径rの式なのでありますが、与えられた図の問題が高校生に出題されても不思議ではないレベルだったのに、このような入り組んだ計算結果になったというのは、相変わらず不思議なことではないかと思います。
 つまり、楕円と円の接触問題のような二次方程式の連立で解けるはずの思いこみで解きにかかるとドツボにはまるわけですね。 

ドツボといっても筋の良いドツボで可解な4次方程式になるのですけれどね。2根が実根で小さい方がここで求める解。大きい実根は外側から楕円を囲む円になります。

 偏心率2/3のケースで描画してみます。

 次なるは、円と楕円の隙間の面積の計算です。そのうえで、下のような四角形における隙間面積比がどうなるかを見届けたいです。

 その前に、楕円の接点が四角形の辺の上にあることの証明です。それには  が1になることを示せばよい。それは確認しました。変形した下の式にs,t,uを突っ込んでやればいい(野蛮なやり方!)

     

 四角形の面積に対する隙間面積の比は次のように書けます。

     

例によって、a=1としても影響なしなので、

となり、uだけの関数になりました。r= でしたね。

uに解を代入したのが下の表式です。

 これもまあ、よくここまで複雑な式になるもんだと感心します。

eを0から1まで動かしたグラフがこれです。

e=0のときは、0.07984くらいですが厳密には下の値。4つの楕円が円になるときです。

  これが最密充填ですかね。グラフからe=0.5くらいまでは大きな変化がないので、この辺りまでは充填率が高めといえなくもないです。

 e=1のときは、0.0931くらいですが厳密には下の値。ありえへんほどペッちゃんこな楕円ですね。実は分母がゼロに近づくので極限値を出すことになります。

 ああ、実に労多くして功少なき結果でありました!


【参考文献】
 考えてみれば、楕円と円を巧妙に配置させて代数的に解くのは和算家たちの絶好のテーマでした。類似品は江戸時代にあるんでしょうかね?

 少なくともこの本では登場していません。ありとあらゆる可能な図形の接触問題を飽くなき探求心で解きまくった江戸期の数学好きの末裔に、自分も属しているのは感じ取れます。

 

 

 

 

 

【続】基礎的ながら不可解なまでに大きな式変形を要する解析幾何の問題

 せっかく、苦労して大量式変形の問題をマイコンピュータ君に解かせたのだから、少々関係する問題を計算処理しておこう。

 一種の最密充填問題を考える。偏心率 eの関数として長方形の面積に対する緑色の部分の面積の比率を計算するわけですね。直感的にはe=0が一番充填率がいいような感じがするが。数値計算でどうなっているかを確かめるわけです。

 直感的には、4つの楕円柱の間に円柱を置いて詰め込んだときに歩留まりがどうなるかという問いです。円柱は緩衝材という役どころでしょうか。

面積比の式は前回のs,tを使って円の半径rを消去すると

     

さらにtを s, eで置き換える。

    

更に sを eで置き換えると判読困難なeの式になる・


 恐らくは、誰も手計算はしていないであろうfeafulな形態でしょう。

 これでe の値域全体について充填率を計算できるわけだ(原理的には)

 

予想に反してe=0は充填率が低く、0.0798488程度となる(手計算で厳密解でもでる)

          

 これに対して、e=1付近が充填率がよくなる傾向にある。つまり、ペッちゃんこな楕円であるほど0.22という値に近づくのだ。

 厳密な極限値は1-π/4=0.21460183660となる。

うん、これは誰も想定していなかったかもしれないですね。

基礎的ながら不可解なまでに大きな式変形を要する解析幾何の問題

 楕円と円の接触問題なので2次方程式の組み合わせを解くだけなのですが、これが途方に暮れるほどシンドイという解析幾何の問題をもう一度穿り返します。

 下のように円を四方から同じ形状の楕円が接する問題を解きます。

つまり、下のような4楕円と位置が与えられたときの円の半径を求めたいのです。

 そうです、このシンプルな問題が手計算ではお手上げ状態の問題になります。

具体的に方程式に落としていきます。

 下図のように半径rの円を原点におき、第一象限の(a, b)に中心をもつ楕円が外側から接するとしましょう。

 接する点を(X0,Y0)としましょう。接点の条件を見極めれば、数学のマニアならすぐに下記の連立方程式を導けるでしょう。

  

円の半径rは(X0,Y0)から、次式で出せます。

      

ところが、上の連立方程式を数式処理ソフトで解くと飛んでもないアウトプットになって見当感喪失を起こします。たぶん、10分では出ないかもしれない。

このままで数式処理ソフトに頼るのはあきらめたほうがいいだろう。

 楕円の離心率e 、X0=a s, Y0=b tなる変数( s, t)を導入する。a=1 としても一般性を失わないことから、上の連立方程式は次に示すような式に変形される。

   

離心率e は所与(a,bがわかれば既知)であるから、についての方程式が出せる。

ぎりぎり4次方程式となったので代数的に解ける。この解の中には円が4つの楕円を内側に閉じ込める解も含んでいるのはもちろんだが、ここは楕円に外接する円のsを求める。

 その解を示す。

 小さくて見えなくとも気にしないでいただきたい。どうせ理解できるような式ではない。あるいは変形して簡易化できる式ではない(と思う。数学は恐ろしく出来る人がいう世界なので断言は禁物だけど)

本当はrの値が分かりさえすればいいので、rについての方程式に書き換えてもいいはずだ。しかしながら、このアプローチも計算量のおおさに阻まれる。

 半径rはsとeで下の式になる(a=1のケースだが、a倍すれば一般の楕円でも成立するのはいうまでもないだろう)

     

 eを0から1近くまで連続的に動かして、接しているのは確認できる。