【続々】基礎的ながら不可解なまでに大きな式変形を要する解析幾何の問題

 前回までと同じような4つの楕円と外接円の原点に対して対称な配置の問題です。しかも、どうやら、こちらの配置のほうがより基本的らしいです。

 基本的であるという根拠は、計算結果がかなりシンプルになることですかね。手計算でもできるレベルといっていい。

 

 ここで注意すべきはa,bを独立に決められないらしいこと。言い換えると楕円の中心位置は偏心率eで制約されるらしい。前回までの配置では楕円の中心はa,bを決めれば自動的に決まりましたが、上図ではそうではないということですね。

 解き方は前回と同じだけれど、第一象限の楕円の接点をx1,y1を選択するのが違い。

  x1→ a s,  y1→ b tとして偏心率eとする。円の半径rは小細工している。

    

と置き換えると楕円同士の接点での方程式とその二つの楕円の表式が決まる。

 これで、あとは s, t, uを解けばいい。見かけは前回よりも複雑そうだが、案に相違してスルスルと解けてしまいます。結果も辛うじてシンプルだ。
  補助理解のための第一象限の拡大図をつける。

 念のために言えば、接点 (s a, t b)は直線上にあるとしていない(実はあるのだが)

 

例によって、a=1のケースで出しておきます。

sの結果は、

tの結果は、

 瞠目すべきなのはuの結果でありまして、これまでになく単純なeの代数式ですね!

uとは、上の図の円の半径rの式なのでありますが、与えられた図の問題が高校生に出題されても不思議ではないレベルだったのに、このような入り組んだ計算結果になったというのは、相変わらず不思議なことではないかと思います。
 つまり、楕円と円の接触問題のような二次方程式の連立で解けるはずの思いこみで解きにかかるとドツボにはまるわけですね。 

ドツボといっても筋の良いドツボで可解な4次方程式になるのですけれどね。2根が実根で小さい方がここで求める解。大きい実根は外側から楕円を囲む円になります。

 偏心率2/3のケースで描画してみます。

 次なるは、円と楕円の隙間の面積の計算です。そのうえで、下のような四角形における隙間面積比がどうなるかを見届けたいです。

 その前に、楕円の接点が四角形の辺の上にあることの証明です。それには  が1になることを示せばよい。それは確認しました。変形した下の式にs,t,uを突っ込んでやればいい(野蛮なやり方!)

     

 四角形の面積に対する隙間面積の比は次のように書けます。

     

例によって、a=1としても影響なしなので、

となり、uだけの関数になりました。r= でしたね。

uに解を代入したのが下の表式です。

 これもまあ、よくここまで複雑な式になるもんだと感心します。

eを0から1まで動かしたグラフがこれです。

e=0のときは、0.07984くらいですが厳密には下の値。4つの楕円が円になるときです。

  これが最密充填ですかね。グラフからe=0.5くらいまでは大きな変化がないので、この辺りまでは充填率が高めといえなくもないです。

 e=1のときは、0.0931くらいですが厳密には下の値。ありえへんほどペッちゃんこな楕円ですね。実は分母がゼロに近づくので極限値を出すことになります。

 ああ、実に労多くして功少なき結果でありました!


【参考文献】
 考えてみれば、楕円と円を巧妙に配置させて代数的に解くのは和算家たちの絶好のテーマでした。類似品は江戸時代にあるんでしょうかね?

 少なくともこの本では登場していません。ありとあらゆる可能な図形の接触問題を飽くなき探求心で解きまくった江戸期の数学好きの末裔に、自分も属しているのは感じ取れます。