関流和算:4つの楕円のあいだの円

 算額にみられる多くの幾何学的問題は図形の接触問題である。円と方形、楕円と三角形などの内接や外接を円理によって解くのが、主題である。
 円理というのはことばのアヤだが、解析幾何と代数方程式で巧妙に解き明かすのが和算だ。ユークリッド幾何学的な解法ではない。
 そういう意味では算木ならぬコンピュータ代数を操る我らの世代にも解けない問題というわけではない。むしろ、計算機にゴリゴリ解を算出させるという意味では、和算家たちには他人ごとではない親近感をもつのだ。

 というわけで、今回は下図のような問題を解いてみよう。
 原点に対称的に配置された同一離心率eの4つの楕円と原点に置かれた円。その円の半径rを求めるのが課題である。下図はe=1/2のケースである。


 本ブログの読者ならご存知のようにこれは簡単には解けない。けれども、幸いにも簡単な連立方程式にはおとせる。

 それぞれ、円の方程式、楕円の方程式、接点の方程式だ。(x,y)は接点の座標。a,bは第一象限の楕円の中心の座標(a,b)である。対称性を適切に考慮すれば一点での方程式でいい。ちなみに解は内接円と外接円のケースを含む。
 これを、下式に置き換える。こうしても一般性はなくならないであろう。eは楕円の離心率である。

 これらの問題は無論、解析幾何学と代数方程式の範囲となる。そして、問題のレベルは高校数学であるが、残念ながらマンパワーで解析解は出せない。いや、出せないことはないがかなり難儀する。

 接点のx座標を示しておく。

 つまり、三次方程式の解の一つになるのだ。江戸期の和算家は算木により厳密解を得ることが可能だったようだ。気の遠くなるような計算を積み重ねてこの手の幾何学模様(模様という次元になっている)を得るため努力していた。
 しかも、彼らは名誉のためだけにこんな類の幾何計算を趣味として算額として奉納していたのだ。それはそれは高邁なことではないか。ちなみに今でもなお算額を神社に納める人たちはいる。その証拠を見たければ、東京渋谷の金王八幡宮に奉納されている。*1


 いつものように、下記の長方形内での充填率をeの関数として示しておく。
楕円の中心からなる長方形のなかで、楕円と円で埋め込まれた面積を長方形の面積で
割ったものだ。


 ほぼ0.92で推移するのが面白いですな。0.92は4つ楕円が円の場合の充填率の値なのでeによる変化は0から0.5付近ではあまりないことになる。



 世界の学者が賛嘆した和算の遊び心と高邁さがこの本で語られるのは、うれしい。

聖なる数学:算額-世界が注目する江戸文化としての和算

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 言わずと知れたベストセラー本

天地明察

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*1:ここはベストセラー『天地明察』の最初の舞台となった