環状列石と縄文人の数

 秋田県鹿角市にある大湯環状列石縄文時代のストーン・サークルとして名高い。そこで掘り出された謎の出土品がこれだ。

 容貌といい形状といい色あいといい「どーもくん」似である。
 関心を呼ぶのが穴の数である。口が1、目が2,左に3、右に4、中央に5の穴が配されており、骰子じゃないかという説もある。
 1が大きくて、2がその次に大きいのは、確かに和製サイコロと同じようなデザインである。

 自分としては、それよりも擬人的に数(数という認識があったとも思えないが)を配列したその美的センスの秀逸さには脱帽する。
 この謎の遺物が環状列石という建造物の土地で出てきた点がはなはだ興味がある。集団作業で用いられた木材、食糧、岩石といった材料を集積して縄文人の共同体が分担しながらサークルを作り上げるには、「数」に近い概念がなければ為しえないんじゃないかと想像されるからだ。
 言語学者の説によれば、1,2,3が最古層の「数」であって、それらはどのような言語にも含まれている。どーもくんに「5」まで表記されているのは、大湯の縄文人たちが片手の指を単位にしていたらしいことを暗示している。このようなどーもくんを幾つか組み合わせれば、5の倍数でもってより大きな数を記録できるようになるだろう。

 メソポタミア文明楔形文字は商取引に関する記録が多いという。実際初歩的な算術の痕跡が見つかっている。縄文人も数える技法があったからこそ、このようなストーンサークルを構築できたのではないだろうか?
 公共放送NHKのキャラの遠い親戚はそうした古代共同体のイコンなのだろう。


縄文土器ガイドブック―縄文土器の世界

縄文土器ガイドブック―縄文土器の世界

 文化人類学者は日本語の原始性として鉛筆などの数え方を挙げている。ブリティッシュ・コロンビア州のインディアンと似ているのだそうだ。
 それにしても、ワイルダーが例に取っている「いっぽん」「にほん」「さんぼん」「よんほん」「ごほん」「ろっぽん」...と「ほん」「ぼん」「ぽん」が入乱れるのはなぜなの?


 ドゥアンヌによれば旧石器時代の遺物から当時の人類が29まで数えていたらしいとする。これは月の満ち欠けの周期に相当する。縄文人たちは季節の周期性を知ってはいたろうが、「暦」として認識していただろうか?