何といってもヨーロッパに近代科学が芽生えたのは、ギリシア文明のおかげであるけれど、そのなかでも比類のない貢献は数学の伝統であった。
それはおおかた間違いないことだろう。
科学史家ニーダムは多くの例で中国の技術的先行性を立証したが、理論的科学の先行性はなかったということになろう。
とくに、ここで強調しておきたいのは、自然学がその誕生のときから数学と結びついていたことの先駆性だ。
イオニア哲学から例示してみる。
紀元前七世紀のイオニア学派ははじめから自然哲学を目指していた。ミレトスのタレスはギリシアの七賢人の筆頭でもあったが、フェニキアとエジプトで数学と天文学を学んだとされる。
タレスが「水」が万物を生み出す質料であると唱えたことから、イオニア哲学が歩みだす。あるいは自然科学が始まるといってもいい。
タレスに帰される幾何学定理がある。
1)円は直径により2等分される
2)二等辺三角形の両底角は等しい
3)2直線が交わるときその対頂角は等しい
4)二辺挟角、ニ角挟辺であるときの三角形の合同性
5)円の直径を底辺とし、円周上に点をもてばその三角形は直角三角形である
おそらくはエジプト人には既知の知識であったろうけれど、伝承によればこれらをタレスは「証明」したとされる。
これが事実ならば、巨大な飛躍であることは、近代に至るまで中国の幾何学に「証明」概念がなかったことからも明らかだ。
「水」は幾何学的な解釈を許さないが、しかし、その流動性の優位を固体的な幾何学を超越しているとタレス(その職業であったろう貿易で幾多の航海をすることで海洋の始原性に開眼したのだろう)は考えたのであろう。あいにくと著作は残っていない。
ピュタゴラス学派は異なるかたちで数学を自然界の解釈に積極的に援用したのは有名だから、省略しよう。
初期段階から自然の探求には数学(幾何学)が付随している。これがやはり西洋的な科学の形而上学的といってもいいほど、科学と幾何学の根深い共生関係を定立することになる。たとえば、天文学における天体の運動ははじめから幾何学的思考が神の秩序と等価なものとして前提されていたわけだ。
それだから、アンテキュラの天文儀を生み出し、機械仕掛けの世界観をやがて組織的に展開することになるのであろう。
ところで、気になるのは上記の5)である。これは円以外の閉曲線でどうなるのだろう?
もとより直角にならないのは予想されるし、固定した角度ですらないだろう。でも、実際どうなるのだろうか?
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