対数はスコットランド貴族のジョン・ネピア男爵によって、一から創りだされた。つまりは、ギリシア・ローマ由来でもなければ、アラビア科学の伝統とも無縁である。
それが不思議であります。カジョリによれば近代算術の三大発明とは「インド記法、小数、対数」であり、そのうち対数のみがネピア独力で考案された。
言い換えると、西洋以外のどこでも対数は考案されなかったことになる。
ネピアとその跡を継いだブリッグスは対数に基づいた数表の作成にエネルギーを注ぎこんだ。
どんな数表か?
それが、正弦と余弦の数表なのだ。それも秒刻みでの計算表である。
なぜ、三角関数なのであろうか?
おそらくは測量術における三角関数の利用がきわめて煩雑かつ要望が多かったからと推察される。とくに、航海術での精密測量が海運国イギリスでは必須だったのではなかろうか? そこでの、球面幾何学では入り組んだ三角関数の計算が必要になるのだ。
ブリッグスはネピアの意志をつぎ自然数の対数表をやがて出版することにはなるだが。
これらはケプラーなど大陸の天文学者たちにも大歓迎されてようだ。「天文学者の寿命を二倍にした」のである。
彼の趣味は「計算」であった。その趣味がこうじて計算方法「ラブドロギア」別名ネピアの骨を生み出している。この計算手段はマーチン・ガードナーの『ネピアの骨でかけ算を』に完全な解説がある。
ネピアは占星術と神学にも通暁していた。これは過渡期にありがちな逸話だ。
なんでも自分の代表作は『ヨハネ黙示録全章に関する完全なる発見』だと生涯信じていた。それはアンチ・キリストを歴代法王のxxに特定し、世の終わりを1688年から1700年の間と断定していた。当時のベストセラー本となったようだ。
どうやら、その計算方法の研究がネピアの骨につながったのではないかと思われる。
アラビア数字にしても、小数にしても、負数であっても、どれもが過去の伝統と複数の人々の努力によって生み出されたのに対して、対数は違う。カジョリはそれを一大驚異と評している。
いずれにせよ、時代の要請には劇的に応えるアイデアであったのだ。不思議な一致であったのだ。
- 作者: F.カジョリ,小倉金之助
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