2008年8月、ロシアは真の愛国者を喪った。アレクサンドル・イサーエヴィチ・ソルジェニーツィン(享年89歳)である。
単にノーベル文学賞の世界的文学者というにとどまらず、旧ソ連の内情を知り尽くした反体制者であった。加えて(こちらのほうが重要だが)西側諸国での亡命生活を通じその見習うべきを知りつつ、その非人間性を痛烈に批判した。1994年にロシアに帰国してからは、自由化と市場主義に混乱するロシア国民を憂え、時事的政治的な発言・提言を行いつづけた。
死に至る晩年はロシアの精神的支柱となりおおせたと言われている。ゴルバチョフ、エリツィン、プーチンらは、それなりに敬意を表している。とくにプーチンは自宅に表敬訪問し、4時間も会談している。プーチンのロシア文化への回帰政策はある程度までソルジェニーツィンの影響を受けている。2007年には文化勲章受章。
だが、ソルジェニーツィンは憂慮することをやめなかった。満足することはなかったし、最後までロシアの行く末を案じ、キリスト教(ロシア正教)的な立場から、現状批判をやめなかった。
日本との関係でいえば、ソ連崩壊後の国家モデルとして1980年頃の日本を考えていたと言われている。そうした縁にもあり来日もしているし、『収容所群島』復刊時に日本人向メッセージを書いたりもしている。日本型経済モデルは「満州国」の岸信介など新進官僚が持ち帰ってきた統治方式がその母体にあるとされるが、その原型はこれまたソ連にあるともされる(因果はめぐる)
『収容所群島』はロシアの教科書に採用されている。終生その経験をわすれなかったソルジェニーツィン。加賀乙彦的、あるいはボードリヤール風な言い方をすれば、今日の収容所はその堀の外側にあるのだ。
彼の偉大さはロシアを超えているだろう。
- 作者: ソルジェニーツィン,木村浩
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- 発売日: 2006/08/03
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参考映像「ソルジェニーツィンと大統領たち」