クノーといえば『地下鉄のザジ』しか思い浮かばないというのが、長年の自分であったが、先週それが相転移した。
おフランスは変わり種を何種類も近代世界に送り届けているが、クノーもその代表格だということをまざまざと看取させられた。
手元の『現代フランス作家事典』から引用していこう。
クノーは一九〇二年二月二十一日、ル・アーヴルで生まれた。その町の高校を卒業した後、パリ大学で哲学を専攻。だが、すでに高校時代から文学に関心を持っていたクノーは、一九二五年、シュールレアリスムの運動に加盟する。...
だが、一九二〇年、彼はバタイユ、レーリス、プレヴェール等とともに、プルトン弾劾のパンフレツトに名を連ねて、シュールレアリスムの運動と訣別する。...
一時狂人の文学に興味を持つとともに、しだいに言語の問題への関心を深めていった。すなわち、言語学や外国語の学習を通じて、現代フランス語における「話し言葉」と「書き言葉」の大きな違いについて明確な意識を持つようになる...
数学を愛好するクノーは、一種の数学的世界観を持つようになった。こうした精神状況の中から生まれたのが、最初の小説『はまむぎ』(一九三二年)である...
この抜粋だけでも相当な文学者の変種であることを感じさせる。
外見はきわめてふつうに見える。
しかも、クノーはアレクサンデル・コジェーヴのヘーゲル講義にも出席していたようだ。邦訳もある『ヘーゲル読解入門』の編纂責任者になっている。伝説のこの講義にはバタイユやメルロー・ポンティなども出ている。
また、こんな「組み合わせ爆発」をモチーフにした詩集を出す。
十篇のソンネが一行ずつ切り離して印刷されていて、読者は順列組み合わせによって十の十四乗の詩を読むことができるという途方もない書物『一千兆の詩』(一九六一年)へとつながっている。
そして、これもだ。
〈コレージュ・ド・パタフィジック〉やOULIPO (可能的文学作業場)のメンバーとしての活躍がある。
パタフィジックはジャリの不可思議玄妙な学問の名称で、ウリポはブルバキ、あの数学秘密結社と関わりがある。
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