J.W.ダン/時間の夢想

 J.W.ダンの思弁的な時間論は前に書いたけれども、文学者のあいだに奇妙な波紋をよんだ。プリーストリーがその最右翼であるのは間違いなさそうだ。『夜の来訪者』など代表的な戯曲にその理論を伏線としてからませている。『Man and Time』という時間論をプリーストリーがモノしているが、それもダンの延長線上にある。
 有名な英国詩人ジョン・ダン形而上詩人とは別ものだ。ダンはどうやら空軍の技術将校であったようだ。20世紀初頭の航空機の台頭期にユニークな形状の機体を発表している。
 プリーストリーと並ぶダンの愛好者は、ボルヘスである。このアルゼンチンの大作家は『時間の実験』のタイトルの妙と奇想の妙をこよなく愛でている。

 そう、ボルヘスは最左翼に位置するだろう。
 それは『続審問』の一章を「時間とJ.W.ダン」に割いているので分かろう。時間の複数性による無限後退、「自分を監査する自分を監査する自分....」がプロティノスの宇宙につながるのを楽しそうに書いている。
 『永遠の歴史』を書いたボルヘスには、ダンの「永遠は既にヒトの掌中にある。夢はその証拠だ」とする真面目な論議が、この上もない文学的夢想の至福なのだろう。

 それは、奇想を好むわたしにもにとってもけっして無縁な感覚ではない。


アメリカ西海岸の古本屋で買い求めた原書


続審問 (岩波文庫)

続審問 (岩波文庫)