これは伝説的見聞を大袈裟に批判しただけの内容である。
フランスの誇る天才ブレーズ・パスカルについての伝説だ。ご承知のようにパスカルは数学者にして深い思想家でもあり、計算機を発明したり大気圧の実験をしたりと短い人生(40歳にも満たいない)のうちに天馬空を行くとばかりの業績を残した。
彼の数学的天才はシャトーブリアンによれば「12歳で「棒」と「点」で幾何学を創造した」と、『キリスト教精髄』でやたら持ち上げられている。
これはどういう事かというと、親から幾何学の魅力に囚われないように、12歳になるまで幾何学について、学習させなかった。ところがある日ブレーズの部屋に父親がゆくと、こう言うのである。
「おやじ、三角形の内角の和は二直角だと示そうか」
エウクレイデスの命題を独力で発見したというのである。
これには誇大宣伝があると言いたいのだ。エウクレイデスの『幾何学原論』をまったく知らなかったことはありえない。
いくらパスカルが弩級の天才であっても有り得ない。この二直角のエピソードが事実としてもだ。
コンタミが起きていたのである。
コンタミとは、情報伝染である。つまり、パスカル家の内部でプレーズは知らずして、エウクレイデスの思考を学んでいたのだ。おやじの会話を漏れ聞いたか、本を読んだか、誰からかヒントをもらったに違いない。
なぜか?
ギリシア数学の遺産を伝承していない文化圏で、中国やメソアメリカ、あるいは日本や朝鮮を入れてもよいかもしれないが、独立にエウクレイデス的公理系により幾何学が発生した事実がないからだ。これだけで、パスカルの天才エピソードのある誇張部分を消し去るのに十分であると思う。
いかがであろうか?
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上記の逸話はこの書に紹介されている。
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