アトランティスと邪馬台国

 失われた国家である欧米圏でのアトランティスと日本での邪馬台国、その比較を試みてみよう。
類似点リスト。
1)場所が不明である。アトランティスは地中海の内部(サントリニ島など)であるという説から、アゾレス諸島南極大陸アイルランドなど比定地はゴマンとある。
 一方、邪馬台国は九州説と大和説だけだと思っていると素人扱いされる。
 比定地の観光ガイド本があるくらいだ。全国50箇所が候補なのだそうだ。
九州で30箇所、近畿で5箇所、その他地域で15箇所であり、おまけにジャワ島やエジプト説もある。

邪馬台国への旅 日本全国・比定地トラベルガイド50

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珍説・奇説の邪馬台国 (黄金の濡れ落葉講座)

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2)文献がある。それも限られた情報源であるが、信頼はおけるものだ。
 アトランティスは哲学者プラトンの対話篇の「ティマイオス」「クリティアス」であり、邪馬台国は「魏志」という中国における正史の一地誌である。

3)どちらも考古学的な遺物はない。
候補地が沢山ある分、遺跡は承認されていない。それと伝わる遺物もない。

4)どちらも滅びた。アトランティスは海中に没したことになっている。邪馬台国は3代目までの記載しかなく、その後ははっきりしない。邪馬台国倭人伝を素直に読めば海上に存在したことになる。

 このような類似性によって、多くのプロ・アマの論者が参加し、百家争鳴状態である。
どちらかと言えば邪馬台国がどこかを意識したのは江戸時代中期(新井白石など)であるため、やや新しめかもしれない。もっとも大和朝廷の頃には卑弥呼神功皇后と考えていたようである。

 アトランティス研究との相違は、邪馬台国の「言語圏」「文化圏」は今日の日本に引き継がれているらしい点であり、日本人だけがことさら熱中するテーマになっていることだ。
 アトランティスはヨーロッパ諸国のみならず、アメリカ・カナダ・ロシアなどヘレニズムの洗礼をウケた国はどこでも研究者がいるようだ。
 日本一国のみの邪馬台国研究というのもちょっと滑稽な感じがする。韓国や中国の研究者も参加してのほうが、アトランティスよりも場所や考古学的遺物が特定できる可能性は高いようだ。魏国からの賜り物(三角縁神獣鏡のような)は全国で発掘されているし、卑弥呼を埋葬した「塚」の記載も信憑性があるからだ。その「塚」の最有力候補は箸墓とされている。また、纒向遺跡は最近になって発掘が進みますます邪馬台国中心部の可能性がたかっている感がある。

 アトランティスの方はそうは行かない。壮大な譬え話を生みだす文学的天才でもあったプラトンの絶妙なカタリである可能性が付きまとうからだ。彼の対話篇「国家」を見給え。
 理想国家とその仕組を対話だけで極めて精妙に創り上げているのだ。彼の才をもってすれば、ヘラクレスの柱(ジブラルタル海峡のこと)の向こうにユートピアをでっち上げるのは不可能ではない。

国家〈上〉 (岩波文庫)

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