アルキメデスの漸化式

古代世界最大の数学者アルキメデスは円周率の近似値をきわめて厳密に計算したことでも知られている。その手法は近代の数学者が認めるようなうな厳密なやり方で、円周率のとりうる値の上限値と下限値を押さえながら、着実に計算するものだ。
 円に対する外接多角形と内接多角形の周長をどんどん計算したのだ。その際に使ったのが、アルキメデスの漸化式である。参考資料のデリーに導出法は書いてある。

 これは調和平均と幾何平均の反復になっているのを留意されたい。しかも、基本対称式である。これらは円周率の二倍に収束する数列である。

はじめの多角形として正六角形をアルキメデスは選んだ。a[0]=4 √3と b[0]=6になる。これより外接正96角形と内接正96角形から、

  π≒22/7

を出している。
正2^7*6角形までの数値計算をしてみると以下のように緩やかな収束である。
 2,2^2,2^3...2^7までのaとbの計算値を示した。
{{3.215390309, 3.105828541}, {3.159659942, 3.132628613}, {3.146086215, 3.139350203}, {3.142714600, 3.141031951}, {3.141873050, 3.141452472}, {3.141662747, 3.141557608}, {3.141610177, 3.141583892}}

近代最大の数学者ガウスはさらに進んだ定理を開発した。AGM定理と呼ばれる。算術幾何平均の定理だ。
 下記の漸化式を考える。

 算術平均と幾何平均の反復である。基本対称式であり、対称性はアルキメデスの式より上である。数列がある極限値に収束するのは明らかだ(高木貞治の『解析概論』にある)
AGM(a,b)をその極限値とすると下式がなりたつことを十代のガウスは示した。

 これは、楕円積分とこんな関係にあるのを示した。

 驚異的な結果というしかない。

 円周率を何兆桁計算したなどという記録の多くはガウスのこの定理を援用しているそうだ。
 かつてはこんな発想がどこから湧いたのか不思議でならなかったが、ある日、アルキメデスの漸化式をデリーの『数学100の勝利』に見出してから、少々納得がいったものである。

 さて、この平均値の漸化式は様々なバリエーションを生み出したのは後世の話だ。しかし、アルキメデスガウスを結ぶ糸としては円周率というテーマにまつわる、これ以上に深い話は少ないであろうと感じる。


【参考書】
 もとねたのデリーの本はこれだ。全三巻ものだ。その第二巻にアルキメデスの式が出ている。
 ところで、いつのまにかシュプリンガー丸善に営業権を譲渡したようだ。最近は丸善の商標で旧シュプリンガー本が店頭にある。


AGM定理の初等的かつ懇切丁寧な解説本はこの本にある。解析学の華である楕円関数と仲良しになれること請け合いだ。