江戸時代に武士から庶民までが数学に熱中していた。和算です。
当時、こんな国は他にはありませんね。他国では数学をたしなむ町民や農民なんてのはめちゃ希少だったでしょう。
江戸後期においては、主に幾何学の複雑な内接・外接図形を組み立てるのが、その主要テーマだったようです。狭い場所に整然と図形を収納するのが日本人の性に合うのでしょね。
そうした和算の典型である「袴腰問題」を取り上げます。
等脚台形に楕円と円を収納する問題です。
等脚台形のなかに、傾いた楕円を大きく斜めに配置(内接)させ、四隅に内接した円を配する。円と楕円はそれぞれ外接させるのです。
法道寺善の極形術を用いるとできるとか、いや間違いだとか議論が江戸期にあったと『和算の歴史』に平山諦は記しています。
これ、かなりの難題です。解析的にやるのも難儀そう。
コンピュータ代数を駆使して勤勉で精緻な和算家の計算をキャッチアップしますが、結果をうまくまとめられるかどうかも怪しい。
難問=困難さの由来を書き留めておきます。
今のところ、等脚台形を与えても一意的に内接する楕円を決定できないという結論であります。
少なとももう一つ変数を外部から与えないと楕円が決まらないようなのです。
説明不足は勘弁していただきつつ、解析幾何の計算をupしていきます。
はじめに問題のアプローチを変えます。
回転した楕円があり、それに外接する等脚台形を決める
換言すると、回転した楕円の式をあたえてから、そこに外接する等脚台形の形状を求めるわけです。
通常と逆にやり方ですね。等脚台形の上辺下辺はx軸に平行とします。
手始めに楕円の回転中心が原点(0,0)にあるとしましょう。すると回転した楕円で(X0,Y0)で接する直線の式はこうです。ここで、a,b,cは与えられているとします。
実は原点中心にして回転した楕円には、y軸対称な等脚台形は外接できないようなのです。
台形の脚 y=mx+nに(X0,Y0)で接する条件から、次式が出ます。
もう一方の台形の脚 y=−mx+nに(X1,Y1)で接する条件からは次式です。
これらから、それぞれ(X0,Y0)と(X1,Y1)を消去して、元の楕円の式に代入してやると
こんな2つの式になります。
ここから、mとnを求めるとnはともかく、m=0となります。
つまり、台形の脚はx軸に平行な解しかない! つまり、台形の上辺と下辺は内接するが、両脚に内接させることは、楕円をどのように回転させても出てこないようなのです。
前提である原点を中心に回転を棄却するしかないのですね。
ここまでの計算が間違いなさそうなことは、等脚台形以外の台形でチェックできます。
y=mx+nとy=-1/m x+nという脚の台形でチェックします。
mとnの連立方程式はこうなります。
ここから求まる台形と楕円の図形をupします。
直角三角形の頭を削ったような台形ですね。たしかに、楕円はギリギリ内接しています。
以上、前半でした。
【参考】目配りの行き届いた和算史の手堅い概説書&必読書
東北大の日本数学史研究の学脈を受け継いだ平山諦の研究成果です。
筑摩版の142頁に袴腰問題が記載されている。
- 作者: 平山諦
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/07/01
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