瞬時の宇宙創造と破壊

 5分前に過去の痕跡を含めて「宇宙が創造」された。
 この有名な言説はボルヘスラッセルによって言及されている(私はラッセルの著作から知ったのだが、いや違うかな?)
 とくにボルヘスによるイギリス人動物学者ゴスの究極の説の書評がいいのだ。
神学者たちによれば、アダムが土くれから神によって生み出されたのは、33歳の身体をもってであり、それは神の子イエスが亡くなられた御歳と同じだという。この数字がゴスにその着想を与えたという。
 フィリップ・ヘンリー・ゴスは、創造された時点でアダムは33歳であり、臍があったとの言い伝えから、過去の痕跡は天地創造でかたちづくられているという説を言い出した。あるいは天地創造は無限の時間の中から神がある瞬間を切り取って、「光りあれ」と宣言した、そういう瞬間にすぎないわけだ。

続審問 (岩波文庫)

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 しかし、この言説のもっとも単純で極端な表現は、「一瞬一瞬が過去の記憶を含めて宇宙創造のときである」ということになるだろう。どれもが創造的破壊の瞬間である。
シヴァとブラフマンの超絶的な行為のやりとりである。
取り残された一瞬前はどうなるのか? 破壊されずに複写されるのだ。宇宙全体の量子複写である。
 なによりも、一瞬一瞬にすべてが生み出されすべてが壊されるというのは、壮大な無駄であるからして尤もらしいのではないだろうか。



この空間的な言い換え版は「知らない間に宇宙にあるものすべてが2倍になる」
ポアンカレの逆説だ。
 確かに何もかもが知らない間に膨張すれば、計測するすべはないような気がする。
何にでも口を出したがる物理屋たちがその測定可能性について論じているが、例によって物理定数が変化するかというDiracの問題提起にぶら下がってきて、末しぼみだ。

 とはいえ、宇宙の大きさの変化は暗黒エネルギーの問題にも関わり合いがあり、うかつな事は言えない。というかみんな好き勝手な空想が楽しめるテーマなのだ。
アインシュタイン重力場方程式に規範をおくと現在の宇宙の膨張の加速は、互いに反発しあう謎のエネルギー(暗黒エネルギー)によってしか説明できない、そうな。


暗黒宇宙の謎―宇宙をあやつる暗黒の正体とは (ブルーバックス)

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宇宙創造が時間の中に過去をはらむなら、宇宙空間も最初から大きさが大から小まですべて出来上がっていてもおかしくはないんじゃなかろうか。