遺伝子の一部で生物の寿命に関わりが深いとされるテロメアというものがある。これは細胞の分裂回数の上限を決めているらしい。
すなわち、ヘイフリック限界を決める部位らしいのだ。
テロメアは細胞分裂のたびにすり減ってゆく。細胞が再生されなくなることは、言い換えると老化につながる。
ということでテロメア短縮を抑制するれば老化を制御できると考え、研究している生物学者たちがいる。
ここでインターネットの概念でTTL(Time to Live)というものがある。パケットという情報の小包がネットの通信の基本であり、それが行きかうことでコンピュータが情報交換することは、かなり知れ渡っている。そのパケットにはネットでの情報の授受が円滑に行われる仕組みが組み込まれている。
TTLもそのひとつだ。
これはパケットの寿命を表わし、ルータか転送するか、1秒経過するごとにひとつずつ減っていくように定義されている。
と手元のTCP/IPの参考書には書いてある。
どうだろうテロメア短縮に似ていないだろうか?
これがあるがゆえにネットワークでの情報のながれ(トラフィック)が保たれているのだ。
仮に遺伝子医療によりテロメア短縮を止める薬剤が開発され、多くの人びとが服用する社会になったとしよう。何が起きるだろうか?
薬を買えない人たちの不平とか暴動とかそんなことではなく、生物学的な何らかの「停滞」が起きるのではないかと言いたいのだ。
遺伝子情報は過去の世代から未来の世代への発信情報であるとひとまず考えてみよう。インターネットが基本、情報の流通経路である。テロメアとTTLの対比が的を得ているとすると、寿命を持つ多細胞生物の身体は別の意味を帯びる。
多細胞生物の身体は、遺伝子の流路である。遺伝子が生き残るか、伝わるかの一過性の通信媒体になる。身体の内部での滞留中に繁殖が十分できれば、すなわち他の通信媒体に遺伝情報を渡せるかどうかにかかっている。
環境や形質にあわせて自然淘汰がおき、その発信情報は置換もしくは更新されることがあることも分子生物学から判明している。
ところがその情報が書き換えられずにいつまでも地上に滞留する。これが種というシステムを混乱させるというのがTTLとの類推で推測できるような気がする。
この不死テクノロジーの開発競争はとうのむかしに始まっていることを言い添えておこう。
- 作者: スティーヴン・S.ホール,Stephen S. Hall,松浦俊輔
- 出版社/メーカー: 阪急コミュニケーションズ
- 発売日: 2004/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人
- この商品を含むブログ (4件) を見る
追記:パケット自体も遺伝子に似ているところがある。PCというハードウェアの動きに関する情報がパッケージ化されているのが、パケットだ。
パケットはTCP/IPの階層に応じた情報の束に幾重にもくるまれている。DNAの部分部分が異なる役割を担っているのにいくらか似ている。