犯罪捜査への高等数学の驚くほどの有効性

「NUMB3RS」という米国製連続テレビドラマがある。よく出来た緊密なプロットで、「数学」が仕込まれていながら幅広い視聴者を集めている。
兄がFBI捜査官、弟が天才数学者のコンビを組んで、犯罪捜査を行うという設定が、ユニークなのだ。
ほぼ一話完結型で、新たな犯罪に新たなテクノロジーで解決してゆく。
いやー、よくネタが尽きないものだ。

ナンバーズ 天才数学者の事件ファイル シーズン3 コンプリートDVD-BOX Part 1

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FBIでここまで数学が犯罪捜査に活躍しているとは思えないけれど、日本人が想像するよりははるかに浸透しているに違いない。
 例えば、地理的プロファイリングなんてのがある。地図を多数の格子に分割する。
その格子内での犯罪の発生確率を半経験的に割り出す「ロスモの方程式」なるものがあり、実用化されている。

地理的プロファイリング―凶悪犯罪者に迫る行動科学

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キム・ロスモはカナダの都市バンクーバーで多年にわたる警察官勤務ののち本書の内容を含む学位論文「地理的プロファイリング」で犯罪学の学位取得を果たしている異色の経歴の持ち主だ。
今やワシントンD.C.の警察財団の研究マネージャである。

連続殺人、連続強盗など連続する一連の犯罪についてかなり有効性があると考えられる。都市内の群集に紛れ込み継続的に犯行を繰り返すケースがそれだ。
連続犯罪者の行為のアナロジーで「狩猟」が使われるのが、草食系にはよく理解できない。狩猟が身近なアメリカやカナダ人には響くのだろう。

犯罪行程研究の要約
・犯人の居住区に近いところで多く発生。大多数は住居から1マイル内
・犯罪移動は指数的減衰関数に従う
・非行少年は自宅近辺で犯す
・犯罪率の高い地区のある都市では、その位置が犯行移動に影響を与える

 ロスモの方程式では、実際の犯罪発生件数から個々の地図格子に発生予測が割り当てられる。そして多発地帯が「ホットゾーン」を表示する。
 これ以外のベイズ統計や各種のマイニングなどの統計手法はまだいいとして、反戦活動家の相互関係データをもとに社会ネットワーク分析で犯罪を未然に防ぐなんてのもある。実際、犯罪集団の内紛やテロ組織のコミュニケーションリンクなどがあれば、何かしら予測はできるのではないか。
そういえば、Pajekなるネットワーク分析ツールがある。

Pajekを活用した社会ネットワーク分析

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ウィルス感染を追跡するドラマがあったが、そこではこうした人間関係を考慮した
SIRモデルを利用しているとされる。
 類書では、この本などが唯一じゃないだろうか。

感染症疫学―感染性の計測・数学モデル・流行の構造

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 どのストーリーでも共通なテクノロジーがマルチ・データベース照合だ。名前かソーシャルセキュリティ番号かがIDとなる。研究者DB、犯罪歴DB、スポーツ競技歴やクレジットカード利用履歴、携帯の通話記録や住所転居遷移、メールログ、身体検査や病歴、薬剤投与歴まで、なんでもござれ。andかorでマッチングして絞り込むわけだ。
 これだけ電子記録を操れれば、犯罪傾向を分析しておいて、ルール化しておく。そうした特異的な行動をとる人間は「犯罪前」に予兆を示す、その傾向を検知して監察するというプロアクティブ捜査が可能になろう(CIAやNSAなどはやってるんじゃないだろうか)
 特異的な行動は電子データ的に自動的に怪しいと診断されてしまうのかもしれない。おおーコワ〜。


 いつも米国TVや映画を観て感じいるのは、コンピュータ画面やUI(ユーザインタフェース)の迫真性と先進性だ。よくもまあ、細かいところまで手を入れている。日本のコンテンツにはついぞないところだ。
 奥深な物語を数学とITにおっかぶせて作れるのは、やはり米国の理科パワーなのだろう。
それはともかく、最新の数学理論が場面違いとも思える犯罪の事件解決に役立つのは、理系にはチョットした快感なのだ。


数学が経済を動かす- ドイツ企業篇(シュプリンガー数学クラブ)

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