サイモン・シンの「代替医療のトリック」(新潮社)は二つの点で瞠目されるべき書籍である。
第一に、一流科学ジャーナリストが「EBM」(ファクトデータに基づく医療)をもとに有力な代替医療を一刀両断したこと。
第二に、それにもかかわらず代替医療の評価はなかなか困難であることを露呈していること。
- 作者: サイモンシン,エツァートエルンスト,Simon Singh,Edzard Ernst,青木薫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/01
- メディア: 単行本
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鍼灸についてのみ意見を開陳しよう。
新薬や新治療のためにプラセボ効果の影響を除去するために二重盲検でケーススタディを繰り返す、そうした地道な努力の積み重ねが、医療現場でなされている。
これを意地悪く言い換えると、理解不明の治療効果はプラセボの名のもとに封印されていることでもある。
何ゆえプラセボが治癒をもたらすことがあるかを解明できていないのだ。
それ故に、プラセボ効果の影響からの差分の有意性を統計的検証する手続きが、EBMの核心だと、私はそう理解している。
- 作者: カール・ヘネガン,ダグラス・バデノック,斉尾武郎
- 出版社/メーカー: 中山書店
- 発売日: 2007/04/04
- メディア: 単行本
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- 作者: H.ビーチャー,笠原敏雄,Henry K. Beecher
- 出版社/メーカー: 春秋社
- 発売日: 2002/03
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サイモン・シンは鍼灸法のEBM報告書にもっともな疑念を呈している。欧米やWHOの報告書は「効果あり」を結論づけているからだ。その効果に貢献しているが中国のケースだ。彼らは中国の事例が信用ならないというのだ。ニクソン訪中の無痛分娩デモが欺瞞だったことも不信感の理由だ。うんうん、そーだけど。
ここで、インドのパンジャーブ出身であるサイモン・シンの検証の姿勢に対する一個の
仮説が浮かび上がる。
インドと中国の政治的反目がバイアスとなっている。すごく根拠が薄い仮説だけどなぜか個人的にはありえると思う。
近年の両国のライバル意識は火花を散らすものがある。
国境紛争しかり、チベット問題しかり(ダライ・ラマ仮政府はインドにある)、さらには水利権をめぐるつばぜり合いもある。
両国とも経済発展、技術発展がいちじるしく、軍備増強に余念が無い。21世紀のアジアの覇権もこれら両国の火種になるだろう。
サイモン・シン君もこうしたバイアスから自由になれているか、どうか。興味が尽きない。
もちろん本人は否定するだろうけれど。
さて、鍼灸法に関する個人的結論はこうだ。
少しでも効果の有意性が検出され、有害でないことが立証されているという前提で、
鍼灸はこれに該当する。
本人が「確かに効いた」と信じられるのなら、それは有効な医療なのだ。
その処方により、本人の生活の質が改善するからである。
万人に効く医療行為ではないかもしれない。医学は所詮、物理学のような客観「科学」と同じ学問にはなりえないのだ。
これについては杉博士の啓蒙書でも同様な結論を出されている。「現代医学に残された7つの謎」で彼が述べているのは、すごく矛盾した言い回し&表現だが、共感できる。たとえプラセボ効果が過半であっても鍼灸法は有効だと。
現代医学に残された七つの謎―研究者の挑戦を拒み続ける人体の神秘 (ブルーバックス)
- 作者: 杉晴夫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/09/18
- メディア: 新書
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それは、科学的というよりは、プラグマティックな結論だ。他の代替医療はどうだか知らない。ここんところ話題のホメオパシーにこの議論が適用できるものではないのは、急いで付け加えておこう。
しかし、なんでもかんでも科学ですべて割り切れるものはないのが、リアルワールドであり、リアルライフなのだ。