カポーティの小説は味わいがある。短編の『ミリアム』が好例だ。
大都会で一人生きる老婦人の物語り。老婦人といっても61歳。日本的感覚でいえば初老ですらない。だが、ミセス・ミラーは数年前に連れ合いを亡くし、ひとり暮らしをつづけている。暮らし向きには困らないだけの財産はダンナが残してくれた。
決まりきった繰り返しのつましい暮らしだ。友だちも親戚もとくにいない...というあたりから、読者はカポーティの世界に引きこまれてゆく。
ある雪の晩の映画館で本ストーリーは始まる。ミセス・ミラーのまえに見ず知らずの少女が現れる。保護者はいない。何の衒いもなくミセス・ミラーに話しかけてくる。
そして、ある夜にミリアムと名乗るその少女は、ミセス・ミラーのアパルトマンに突如として現れる。
謎の少女の突然の出現とズケズケと食事を所望するわからず屋の横柄さとに動転するミセス・ミラー。
不安になったミセス・ミラーは同じ建てものの隣人に助けを求めるが、自分の部屋に戻ると少女はかき消すようにいなくなっている。
一人きりになった部屋でミセス・ミラーはしだいに没我状態になる自分を感じてゆく、「こんばんは」とミリアムがふたたび声をかけてくる...。
この下手な要約では伝えきれていないが、物憂い寂寥感と自我の衰弱が生み出すイリュージョンを『ミリアム』はうまく伝えているのだと思う。
カポーティの描こうとしているのは異常心理でもサスペンス的な状況でもない。
大都会の海底で孤独にまとわりつかれた死を描こうとしているのではないかと推量する。
そうそう、日本の無縁社会とは無縁な小説ではない。一人末期を迎えるヒトはこのような孤独な思いを体験しなさっているのであろう。
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対比されるのは、浅田次郎の『鉄道員』
同じ孤独死でもこうでなくちゃね!
ちょいとくだくだしいけど、ストーリーはこうだった。
仕事一徹の真面目で寡黙な鉄道マン。高倉健にふさわしい役柄だ。出世に目もくれず妻と北海道の外れの駅に赴くが、医者のない厳しい土地で生まれたばかりの娘をなくす。
その駅のある炭鉱の街もしだいに寂れてゆく。やがて妻にも先立たれ孤独を噛み締めながら、一人駅に立ち駅長兼駅員業務を黙々と続ける。
そんなある日、誰もいないプラットフォームに少女が現れる..。
最後を刻むふれあいの時がぽっぽ屋に訪れる。
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