手持無沙汰の感覚

 少年時代の思い出である。
 新品の上着を着ると必ず、両手のおきどころに困った記憶がある。これはいったい何なのだろうか?
 着慣れた服では手の置き場所など意識したことなどない。新しい服に袖を通すと、さて、腕のおきどころ手の場所がどこにもってこようか悩むのである。手が目に付くといってもよい。
 もじもじするわけだ。
 大人になってそんな鋭敏さはどこかに置き忘れてしまった。それも感覚鈍麻で残念な気もする。

 同じ経験をもつ人の話を聞いたこともなく、この感覚を表現した小説に遭遇したこともないので、自分だけの経験なのだろうけれどね。
 これを名付けて「手持無沙汰の感覚」と呼んでおこう。