猿投という言葉は地名を表すと同時に、中世においては焼き物を意味していた。猿投(さなげ)は吉田東伍の大日本地名辞典では猿にまつわるとしているが、こんな文書が残されているそうだ。
「景行天皇が伊勢国へ赴いた際に、かわいがっていた猿が不吉なことを行ったので、海へ投げ捨てた」
浜松市の佐鳴湖の存在などを引きあわせて、どうも「サナキ」に由来しているのでなかろうか?
サナキとは銅鐸の古名である。
さて、本題に戻る。
「猿投」のご近所の瀬戸物は江戸地方では陶器の代名詞であったが、それは近世だけの事象ではない。これは夏目漱石の『坊ちゃん』でのエピソードともなった。
森村グループというのものがある。戦前は財閥であったという。
ノリタケを含む陶器セラミック産業の一群である。ノリタケはその風流なデザイン性が内外で評価される一流ブランドでもある。オールドノリタケが有名だ。
このグループには、TOTO、日本碍子、日本特殊陶業、大倉陶園、共立マテリアル、森村商事が属する。
これらは中部地方を拠点を置く企業だ。いわば、土くれから価値を生み出している企業だ。創業者の森村市左衛門は「森村学園」の創設でも知られている。
一部の自動洗浄トイレだけで騒ぐのは早計なのだ。こんな地道で堅実な産業群を抱えているのは誇りとすべきだろう。
地味な土石ガラス産業という括りでも日本にはそうそうたる企業が活動している。旭硝子は世界最大級だし、京セラも有名であろう。それ以外にもHOYA(半導体製造用のマスクブランクス、HDD用のガラス基板事業における世界シェアはいずれも70%超)とか、INAXを含むLIXILなど建材系企業大手もある。
韓国や中国にこうした土着(=伝統に根付いた)で地道な土くれから陶器だけでなく、工芸品やセンサーなどの高付加価値を生み出す企業があるだろうか?
知名度の低いが実力で侮れないユニークな企業群なのだということは、大学生諸君は認識しておいてほしい。