窮極の電子書斎の仕事補填術

 近著「iPadでつくる「究極の電子書斎」」でモノした「ギガバイト読書術」について、もそっとだけ説明しておきたい。
 書籍をデジタル化する利点は、その内容が作業場所であるデスクトップ内のライブラリーに所蔵されていることは言うまでもない。
 これは従来の「物質としての」書籍群に対して、知的生産のスピード化という点で大きなリードとなる。

 知的作業に不可欠なものは、連想である。連想を展開させることは、思考を発展させることである。必要な情報はそうした思考を増殖させるエサのようなものだ。

例えば、*1
20世紀ポーランドの数学を調べるとする。志賀浩二の代表作の『無限からの光芒』は基本図書だとしよう。
さて、20世紀前半(両大戦間)のポーランドがどうして数学的な発酵状態になったのか?
この本だけからはでは判明しない。
どうすればいいか。
 本来なら作業はここでストップしてしまう。だが、スキャン文庫には『ポーランド史』が一冊だけあるのを、即座に発見する。ソ連とドイツに圧迫されていたことは分かる。薄いクセジュ文庫なので数学についての記載などまったくない。
 岩波の数学辞典もある。「ポーランド」で全文検索をかける。ポーランド空間がヒットするが、数学用語だ。その他にとくにヒントもない。
 ユダヤ人が多かったことは「ワルシャワゲットー」の書籍があるので、すぐ思いつく。この時期、ロシア時代のポグロムで多数のユダヤ人がポーランド流入していたのだ。ポーランドでは目立ったユダヤ人迫害がなかったこともシセール・ロス『ユダヤの歴史』から分かる。41件のポーランドに関する記載がある。
この本でユダヤ思想「ハシディズム」が東欧で盛んだったのが分かる。ユダヤ人が、ポーランド数学勃興のひとつの鍵であることは推測できる。

 志賀浩二の『無限からの光芒』にもバナッハ、シュタインハウス、シャウダーやウラムもユダヤ系であったと書かれている(次いでにSF作家のレムもだ)
 そうなるとキリスト教神学が素地になったのではなくて、ユダヤ思想が「無限」「位相」「解析集合」「選択公理」など特異的な業績の素地になったのであろうか?
  などなど。

 スキャン文庫の限られた書籍群をキーボードから手を離すことなく、連想を広げていゆくことが短時間で可能になる。
「フロー体験」と著書中で呼んだものだ。必要な情報が連続的に呼び覚まされて観念連合力が亢進するをこう呼んだ。この言葉、もとはチクセントミハイが活動に没入することを「流れ」に例えて表現したものだ。
 それが実装できるのは思考のスピードの情報収集がスキャン文庫により加速されるからである。書斎か書棚、あるいは近所の書店や図書館に必要や書籍を探しにゆくよりは、はるかに作業スピードが向上するのは自明であろう。
 制約はスキャン文庫のコンテンツ数である。イヌイットについての家族制度を即座にたたき出せるか?大腸菌の生態をイマすぐ語れるか?名人スナイパーの技術はどんなものか?
 スキャン文庫も数千冊あると、これらのレアな雑学ネタに関してほぼ何かしらほじくり出すことが可能なのだ。私は勝手に情報集積効果と呼んでいる。
そして、情報集積の効果についてはもっと量的な評価が可能だと予測する。

何ごとについても何かしら有意義な情報を語らしめること

それを実装することが目標なのである。

*1:ここのところ自分への宿題となっている