中国の憂鬱

 尖閣諸島事件は中国の大国意識の表れであろう。
 仮に、それによって国民の不満を解消しようとしているのであれば、もっと憂慮すべき問題を内政面で抱え込んでいる中国に隣国の一国民として心より同情すると申し上げたい。
 社会福祉・医療制度が完全に麻痺している社会主義国家。病院はどこも大行列だ。病人は闇取引で医者にかかるしかない。
その状況は2008年のNHKスペシャルに詳しい『病人大行列〜13億人の医療
その後、2009年に医療保険制度を導入した。総人口13.2億人のうち基本医療保険に加入者が11.3億人と2009年末には報じられている。
だが、医療費は前払いが原則であるのは制度以前と変わらぬ他、下記のような制約がある。

(1) 省や市での地域限定給付になっており、その外に出ると保険がきかない
(2) 居住地内であっても指定外の医療機関に受診すると保険がきかない
(3) 保険の種類によっては、外来診療は保険がきかない


 さらに、追い打ちをかけるのが水と食料安全性の不安。市民は絶えざる病因の源を多数抱え込んでいる。
http://www.worldwatch-japan.org/CHINAWATCH/chinawatch2007-2.html

地下水汚染の危機「約6割はより深刻」という今年の記事もある。中国北部の河川は工業用水に吸い取られ、生活用水は地下水依存。その地下水が汚染し、枯渇する危険を抱え込んでいる。

「いま、そこら中にある危機」に中国は直面しているのだ。これでは国民の眼を外交や愛国意識発揚に向けるしかあるまい。

10月の2つのレポートが危機的な状況を盛り上げる。
毎日エコノミストでレポートされた年々縮小する農地と低い生産性。生産可能な農地は工業用地と道路に召し上げられる。農民は土地所有権がなく、社会的弱者に追いやられる一方で、食料自給率は低下するだけだ。穀物の品種改良が疎かにされている。結果は、大豆、トウモロコシなどを輸入に頼るようになってしまった。
 農民を捨て去る中国にどのような生き残りの選択肢があるか、寡聞にして知らない。薄ら寒い私の歴史認識としては、中国文明を6000年にわたり維持してきたのは大地に生きる農民だということしか知らない。*1 
 だが、中国はパンドラの箱を開いた。13億人の欲望が「生態学的に破綻したライフスタイルモデル」であるUSAのそれを理想化したものであるのは、ありそうな話だ。背筋が寒くなる話でもある。

 交通状況は麻痺寸前だと週刊東洋経済の記事記事(10月)は伝える。

「北京の交通は壊滅! 5キロのために3時間半」

 インフラの整備が追いつかないどころか、破滅的な様相を呈している。為政者は焦燥感にかられているのではあるまいか。


 問題はどこにあるのだろうか?
国家資本主義の仕組み自体にあるのだと思う。三権分立が機能しない。計画を実施してもその実効性をチェックできない。言論の自由が奪われているため、どこがまずいか識別できない。中央からは監視できないからだ。
 相互監視やチェックが不可能な一党独裁システムが社会工学的な機能実装を妨げていると想定されるのだ。
 統制と際限のない資本の自己増殖が今や国民を虐げ、国境を超えてはじけだそうとしている。
 繰り返すが、本当に気の毒なのは中国人民自身なのである。

偉大な歴史家アクトン卿の名言を引用しておこう。

権力は腐敗する。絶対権力は必当然的に腐敗する

*1:パール・バックの『大地』を思い出す