トイレの神様

 植村花菜の『トイレの神様』が人気だそうだ。それはそれでいい話だけれど、わたしの言いたいのは、「古い伝承」のよみがえりがあるじゃないかということなんだ。どうも江戸ブームといい神社ヒーリングといい日本原点回帰が盛んな感じがする。
 さて、厠神(かわやのかみ)は民俗学ではマイナーな存在だ。厠を守ってくれて、大を右手で受け、小を左手で受ける。唾を吐くと厠神は口でうけるので、トイレに唾を吐くもんではないのだそうな。
トイレ掃除は嫁、とくに妊婦の仕事とされた。というのは厠神は産神(安産の神)でもあったからだ。
宮田登の『神の民俗誌』を引こう。

栃木県小山市でセッチン参りというのは、出産後、便所に赤飯、塩などを供え、箸をそえて、生まれた赤子を連れて参る風習で、わざわざそこで汚物を食べさせる真似をしたという。セッチン参りを済ませると、その箸を便所にさしておくという。よく便所が汚ないと難産するといったり、逆に便所をきれいにすれば、安産で良い子が生まれるという口碑があり、女性たちが.必要以上に便所をきれいに掃除することを習慣としている家がある。

雪隠参りの風習で、えくぼができて愛嬌のある美人になると信じられていると記しているのが「信濃の便所神樣と民俗」(倉田あつ子)である。
 推測するに植村花菜の祖母は長野出身だった可能性がある。

さらには中国に同じ系統の伝承がある。
トイレの神様』が上海でもウケていた理由になるかもしれない。

中国では、厠神を紫姑神といい、女神である。昔寿陽の李景なる人が妾を迎えたが、本妻が嫉むので、正月十五日に周の中で妻を殺した。そうするとそれが妾に崇るので、正月ごとに闘うしっしゃま神として杷ったというし、また仏家では、「烏琵沙磨明王」という厨神があり、この明王は火焔を起こして、悪魔を払う功徳をもっという。

神の民俗誌 (岩波新書)

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竈神と厠神 異界と此の世の境 (講談社学術文庫)

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