企業戦略論-選択と集中は本当か?-

 限られたリソース(ヒト・モノ・カネ)を企業のもっとも核心的な事業に絞って、投下するのが経営の基本ということになっている。
 事業の戦略領域を選択して、しかるのちに集中的に投資せよ。これが「選択と集中」である。
とてもロジカルでもっともな思考法ではある。
 だが、そこに幾つか盲点があるようだ。
「選択」するのは、製造業では特定の製品、サービス業では特定のサービス(接客対応とか)だけだと考えるのは、短絡的だ。

 「選択」はヴァリューチェーン(価値連鎖)で考えなくてはならない。
 掃除機メーカーが強力な吸引能力のクリーナーを「選択」して、積極投資するにしても製品開発だけに投資すると必ず失敗するであろう。販売店や顧客までその製品が伝達しないことになりかねない。競合他社が省エネ&エコでクリーナーを売りだせば、時流によってはそちらに売り負けるのだ。

「選択」には絶えず主観性の罠がつきまとう。
それは三つの罠に分解される。市場性の罠、文脈の罠、単純化の罠である。

 選択と集中の隠された問題点をもう一つ、指摘しておこう。
リスクである。マーコヴィッツなどによる投資のポートフォリオ理論は幅広い適用範囲がある。
リスクは分散させることがポートフォリオ理論では鉄則となっている。
 集中投資は実のところハイリスク・ハイリターンなのである。「選択と集中」戦略はハイリスクにどう立ち向かうかについての議論が付随しない限り、ただの博打に成り下がる危険性を持っている。

 経営者はそうしたことを念頭に起きつつ投資の意思決定をしなければならないのである。